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Logo Mark連載小説・空虚な石(仮)2. 黒い人(4)

スピナート文芸部

アーティストを支援するサイト「Spinart(スピナート)」が、小説系の文筆を志す方のコンテンツを、トライアル的に展開するのがこの「文芸部」。
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「ピン!」
 iPhoneから音がした。この音はLINEのメッセージが届いた音だ。帰ってきてからなにもする気になれず、鞄だけを放り投げて着替えもせず、自分の部屋のヘッドに横たわっていた。部屋の灯りも点けていなかった。
 別れ際に薫が言った一言。本当に送るだろうか。彼女ならやりかねない。でもそれは危ないんじゃないか…いろいろなことが取り留めもなく頭に浮かぶ。父はまだ帰ってきていない。
 もぞもぞとポケットを探りiPhoneを取り出す。そして頭だけを少し上げてその画面を見た。彼女からのメッセージだ。
「送ってみたよ。」
 目に飛び込んだ文字に思わず起き上がる。即座に返信だ。
「マジで? なんて?」
 少しの間を置いてすぐに返事が返ってくる。
「ファンです。次のライブっていつやるんですか?って。」
「それで?」
 すぐに返す。またすぐに返事が返ってくる。
「それがね…ウソツケってだけ返ってきた。」
 思わず笑う。恐らく、まったく知らない女子高生らしき女の子からのいきなりのメッセージに、ソーシャルネットワークでよくある釣りだとでも思ったのだろう。通常そういうメッセージには応えないのが普通だが、それに対していきなりこう応えるか…沢井って人は結構面白い人かもしれない。
 ピン。
 立て続けにまた彼女からのメッセージ。
「ひどくない?」
 それにまたちょっと笑う。
「それになんて返すの?」
「もう返したよ。嘘じゃありません。あなたのアルバムを2枚も聞きましたって。」
「それって大嘘じゃん。」
 もうニヤニヤ笑いが止まらない。
「そもそもファンだって言ってること自体嘘だけどな。」
「だってムカつくじゃん。いきなりウソツケとかさぁ。」
 彼女のムクれている顔が目に浮かぶようだ。それがまた笑いを誘う。
 ここでしばらく間が空いた。そして返事が来た。
「今ね、ちょうど返事が来た。なんかね、もうやらないんだって。なんかどっかに引っ越すんだってさ。」
 それまでのニヤニヤが消し飛ぶ。思わず彼女に電話した。そしていきなり言った。
「どゆこと?」
 電話の向こうの彼女はやや呆れ声だ。
「もお…いきなりだなぁ…。なんかね、近々引っ越すんだって。だからもうやらないって書いてあったよ。」
「なんで? どこへ?」
 彼女が言い終わるのが待てない。
「知らないよ〜。そんなことさすがに聞けないじゃん。」
 確かにそれはそうかもしれないけど、せっかくつかみかけた手がかりが消えてしまうような、そんな焦りを感じていた。
「じゃあさ、こう返事しろ。」
 そう言って彼女に内容を伝える。まずはやめないで欲しいということ。そして、どこへ行っても見に行くから、やる時はちゃんと知らせて欲しいということ。それを伝えるように指示した。
「分かった。じゃあ送っておくね。」
 電話を切ってしばらくすると、また彼女からメッセージが届いた。
「送っておいたよ。返事も来た。ありがとう、分かったって。それで、もしやる時はホームページとかFacebookに載せるから見ておいてって。」
 そのメッセージに返事をしてからまたベッドに横たわる。この感じだとしばらくはやらなそうだなと思う。そして、今日あの黒い人を見失ったことが悔やまれた。


連載小説「空虚な石(仮)」をまとめて読む
1. 母
2. 黒い人(1)
2. 黒い人(2)
2. 黒い人(3)
2. 黒い人(4)
3. 叔母
4. 父
5. 薫

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