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Logo Mark連載小説・空虚な石(仮)5. 薫(5)

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 作戦を立てようと言い出したのはもちろん薫だった。まず今分かっていることを整理する。沢井賢司のホームページ。Facebookのアカウント。この近所に住んでいるということ。ただしこれは、以前薫がメッセージを送った時に、近々引っ越すということも言っていたからもう居ないかもしれない。音楽活動のリハーサルもこの近隣のスタジオを使っているはずだと向井が言っていた。この近隣のライブハウスにも出演している。しかしライブの活動は、ちょうど母が亡くなった頃を最後に途絶えている。というかFacebookへの投稿自体がその頃を最後に一切ない。その他、ラジオ局も有力な手がかりだ。
 まず考えたのが、またメッセージを送って、そこで直接聞いてしまおうということだったが、前の反応を見る限りきちんとした答えが返ってくる可能性は低いと思われた。むしろ、変に言い逃れされたり、嘘をつかれたりしてもこちらでは気づけないし、なによりもそれによってブロックでもされれば、最大の情報源を失ってしまう危険性もある。だからこの方法はなしということになった。
 とにかく、Facebookを見ていればいつかはなにか動きがあるかもしれないということは期待できる。しかしそれがいつかはまったく分からない。遠くに転居されてしまってからでは遅いと思えたし、もしかするとこのままなんの投稿もされないという可能性も否定できない。だからこれは、これからもきちんと観察を継続する必要があるが、もっと有効な方法を考えなければならないということになった。
 もっと有効な方法…ここで二人とも一旦頭を抱えた。
 以前あの公園でライブをやっていたのは分かっている。それに、あの公園で似た人を見かけてもいる。しかしだからといってまたあの公園に出没するのを捉えるには、少なくともそこで四六時中貼り込んでいる必要がある。それはどう考えても無理だ。毎日の放課後と日曜日のすべてを使って張り込んだとしても、そこで出逢える確率は決して高くはないと思える。
 それでは以前に彼らしき人を見かけ、そして見失った付近を探してみるか。これも難しい。その周辺はさほど広いエリアではないかもしれないが、そこには多くの住宅やアパート、マンションがあり、それを虱潰しに当たっていくのはどう考えても二人だけでできることとは思えなかった。それに、そもそもその時見かけた黒い人でさえ、本当に沢井賢司その人だったという確証はない。それなのにそこに労力をかけるのはちょっと現実的ではないと思えた。
 リハーサルをしているというスタジオとライブハウスは二人にとって少しハードルが高いと思えた。二人とも、スタジオやライブハウスという場所に行ったことがない。スタジオやライブハウスはおろか、楽器店にも行ったことはないし、最近はCDショップにさえ行かなくなっている。だからそこがそもそもどんなところなのかも分からないし、この近隣にどのくらいあるのかも知らない。また、行ったからといってすぐに沢井賢司のことを教えてくれるような場所なのかも分からなかった。
「これは向井くんに聞いてみようよ。」
 彼女が言う。確かにそれしかないだろう。だから彼女の提案に頷きながら、僕には別のアイディアが浮かんでいた。
「ネット上の追跡って、里奈ちゃんに頼んだらもっと簡単にできるんじゃないかな。」
 僕の言葉に、それまでの会話をいちいちメモしていた彼女が顔を上げ指を鳴らす。
「確かに。里奈なら、なにかいい方法を知ってるかも。じゃあさ、今度また4人で集まって作戦会議しない?」
 彼女の提案に、一旦それはいいかもと思いつつ、完全に僕のプライベートなこの問題に、二人を協力させることに少し申し訳なさを感じ躊躇する。
「だってしょうがないじゃん。ここにいるこの二人のバカな頭じゃこれが限界なんだもん。」
 確かにその通りだ。
「立ってるものは友達を使えって言うでしょ?」
 とっても前向きに元気よく言う彼女だが、言ってる意味はさっぱり分からなかった。


連載小説「空虚な石(仮)」をまとめて読む
1. 母
2. 黒い人
3. 叔母
4. 父
5. 薫(1)
5. 薫(2)
5. 薫(3)
5. 薫(4)
5. 薫(5)

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