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Logo Mark連載小説・空虚な石(仮)6. 里奈(1)

スピナート文芸部

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「そんなに沢井賢司が気になるの?」
 次の日曜日。この間と同じファミレス。座るなり口を開いた里奈ちゃんの一言目がこれだった。
「うん…まぁちょっとね。なんていうか…地元の有名人って感じで、できれば逢ってみたいなぁと思って。」
 薫が応える。その応えにちょっと苦しいなと思いつつ、笑顔を浮かべて切り抜けようとする僕。本当の理由を話さないというのは薫の提案だった。やはりことがことなだけに、あまり多くのことを話すことで予期せぬ反応があったら困るというのがその理由だった。
「例えばさ、向井くんが沢井賢司とつながってて、こっちのことを先に伝えちゃったら、全部ダメになっちゃうと思わない?」
 この間の向井の感触ではそんなことはないと思えたが、しかし彼女の心配を覆すには根拠が薄いと思え、だから特に反対はしなかった。
「そうねぇ…友達になって状態で考えられるとすれば…Facebookのを〇〇して××すれば…投稿があった時に自動でメールでお知らせが来るようにできるかもね。」
 里奈ちゃんの言っていることはさっぱり分からないが、ともかくそうすることで、いちいちずっと見ていなくても、沢井賢司がFacebookになにかを投稿するとメールが飛んでくる仕組みが作れる…らしい。
「あ〜でもやっぱ友達になってないとダメかもなぁ…。だいたい、友達になってればこんな面倒なことしなくても、リストに登録しておけばFacebook上でお知らせが来るようにできるけどね…。」
「リストってなに?」
 僕が聞きたかったことを先に薫が聞いた。
「Facebookにそういう機能があるの。例えば友達がたくさんいると、表示される記事の数も増えるから、その中に埋もれちゃって大切な友達の投稿を見逃しちゃったりするでしょ? そういうことがないように、リストに登録しておけば、その友達がなにか投稿した時に、別にちゃんとお知らせが出るようにできる機能だよ。」
「へぇ…そんなのがあるんだ…。」
 横で向井も感心している。
「でも友達になれるかな? そこがポイントだね。」
 里奈ちゃんが僕と薫を交互に見ながら言う。確かに、見ず知らずの人がいきなり友達リクエストして、それを承認してくれる可能性は怪しい。まして、薫は前に一度メッセージを送ってから怪しまれているかもしれないし、僕に至っては母と同じ名字なだけにリクエストした時点でバレるかもしれない。
「実はさ…。」
 薫が仕方ないとばかりに、以前自分がメッセージを送ったことや、それに対する反応を話した。
「だから、あたしがまた友達リクエストしても怪しまれるだけだと思うんだよね…。」
「あれ?」
 そこで向井がちょっと唐突に声を上げた。
「俺、友達になってるかも。」
「前にイベントで一緒になった時に、確か友達になった気がするなぁ。そしたらさ、俺から紹介しようか。知り合いのファンの子だってメッセージも入れてさ。そしたら友達になれるんじゃない?」
 なるほど、それはいい手だと思えた。既知の向井からのお墨付きがあれば早々無闇に疑ったりもしないだろう。この方法なら、以前メッセージを送ったことも逆に効果的に働くことになる。
 向井はその場で自分のiPhoneを取り出し、薫を招待した上でメッセージを送ってくれた。なんとあっという間に課題が一つクリアした。このチームはなかなかすごい、と、心の中で頼もしく思う。
「スタジオはね…何軒あるかなぁ…4軒、あ、5軒かな。でも、その中でも行きそうなところと言えば3軒だね。あとの2つは汚くて狭いから、沢井さんみたいな人は行かないと思うよ。」
 なるほど。3軒ならすぐに回れそうだ。でも僕はスタジオというところがどんなところかまるで知らない。
「それって僕みたいなのがいきなり行っても大丈夫なところなの?」
 恐る恐る聞いてみた。その問いに向井がカラカラと笑う。
「大丈夫だよ。全然怪しいところじゃないから。だって俺らみたいな高校生バンドだってそういうところで練習してるんだからね。怪しい場所だったら俺らだって入れないでしょ。でも、全然知らない人がいきなりいろいろ聞いても教えてくれないかもしれないな。じゃあ一緒に行こう。一応その3軒は全部何回か使ったことあるし、会員にもなってるから。」
 本当に頼もしい。じゃあ次の日曜日にということで話がまとまった。
 残るライブハウスは3軒。向井が言うには、とりあえずリアラーシュタインのパネルがまだ飾ってあるその内の一つに行ってみればなにか分かるのではないかということだった。ここは素直に向井の意見に従うことにした。


連載小説「空虚な石(仮)」をまとめて読む
1. 母
2. 黒い人
3. 叔母
4. 父
5. 薫
6. 里奈(1)
6. 里奈(2)
6. 里奈(3)
6. 里奈(4)

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