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Logo Mark歯を磨く様に演じる表現って…

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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大学を卒業し劇団に入団したての頃、役者の先輩に言われた事がある。
「日常、表現しないから駄目なんだ!」
と。自分では学生時代、精一杯表現していたつもりだったが、思い返すとそうでもない様な気もする。
我が家は、家族の中で1番口達者な母が、1番の権力を持ち(これはあくまで子供の視点から)、父の血を多めに引いた私たち兄弟姉妹そして父が皆口下手で、いわゆる会社で言うトップダウンのシステムが働いていた。
いつだったか、夏休みの宿題に保護者の見解を書く欄があって、こんな質問があった。
“子供が言うことを聞かなかったらどうしますか?”
それに対し母親は“納得できるように説明をする”と書いていた。それを見た私は、納得するように!? 冗談じゃない! 言ったって聞いてくれないし、それ以前に言えないよ、と心の中だけで思っていた。
なんせ私が役者を続けることに対し、続けるなら鵜飼家と縁を切れと絶縁状を書かせた母親ですから(笑)。
こんなことが日常茶飯事に行われる家庭で育てられたからかもしれません。心では違うと思っていても顔や表情には一切出さないように、小さい頃から訓練されていた。
先輩に言われた夜、鏡を見ながら、その劇中の楽しい表現をやってみた。
『ほんとだ! どう見たって楽しくもおかしくもない。あちゃ〜! これぞまさしく無表情、ストーンフェイス。』
もちろん役者にはセリフがあるので、セリフで表現すれば良いのだが、やはり全身を見せているので、セリフだけではなく、それ以外顔や体の表現が重要になってくる。
そこで、鏡を見ながら口角を上げてみる。するとなんだかちょっと楽しい表情になる。そして少し口を開き頬骨を上げる感じで目を少し大きく見開いてみる。もっと楽しそうになる。そうなんです。感情に関係なく、こういう風にして出した表情の方が見た目、楽しい感じがするのです。
“心が動いて体が動く”。
“体が動いて心が動く”。
基本的に日常生活では前者の“心が動いて体が動く”の表現が多いが、“体が動いて心が動いて”も大丈夫。どちらもゴールは同じ。
これ、特に後者を日に日に習得し、時には、芝居をしながら顔では明るく笑ってセリフを言いながらも、頭の中ではすこぶる冷静に“あれ?あそこに小道具置いたかな?”とか“客席のあの人寝てない?”なんて思っていた事もある。
これは表情だけの話だが、それ以外にも本当に、表現において自分のやっているのと他人が感じたのとでは、大きく違っていることも多く、表現の難しさを今でも感じる次第だ。
話がそれてしまうかもしれないが、7、8年前の冬、あまりの寒さにマスクをしだした。別段風邪でもなんでもない。マスクをすると顔の周りが暖かく心地良かったからだ。この時気づいた。
「マスクって便利だなぁ。目から下の表情を全部隠せるんだから。」
芝居を始めてある程度たった私は、顔に自分の感情が出るようになり、「しまった!」と思うことが時々あって、マスクの便利さに感動した。
しかし、マスクが手放せない昨今感じているのが、マスクをしていると無防備で口角が下がりつつある(=不機嫌に見える)と言うことだ。仕事上、人と接することが多く、マスク未着用時、口角を上げ笑顔を心掛けている自分だが、マスクをしていると別段マスクの中が誰かに見られているわけでもないので、口角が常に下がる。そして、ある時マスクを外した自分の表情を見て我ながらびっくりした。
『こりゃ〜マスク、良くないわ。』(役者のつぶやき)

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鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
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