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Logo Mark歯を磨く様に演じる舞台劇「ワーニャ」(一人芝居)ナショナル・シアター・ライブ

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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先日舞台劇「ワーニャ」をナショナル・シアター・ライブで観てきた。これは英国ナショナル・シアターが厳選した、世界で観られるべき傑作舞台を映画館で上映するプロジェクトである。
宇都宮でも歌舞伎や東京の人気劇団の公演を上映する事はあるが、それでもなかなか外国の芝居や古典の作品の上映はない。
友人に勧められた上映時間約2時間の舞台劇「ワーニャ」(一人芝居)を観るべく、仕事があらかた終わった平日午後4時55分、JRに飛び乗り池袋の映画館へ向かった。
先日一人芝居フェスに参加したこともあり、又、自分も一人芝居をしばしば公演するので2時間もの一人芝居をどの様に演じるか興味深々である。
「ワーニャ」の上映館はキャパ142席の比較的コンパクトなお部屋だったが、気づいた時には座席は半分近くうまっていた。それも若い人が多い。
上映時刻となり、よく観にいく映画館ヒカリ座の3倍かそれ以上の映画の公開予告をいつまで続くのだろうと眺めていると、やっとやっと始まった。
舞台にはアメリカかどこかの家庭にありそうな、キッチンがあるリビングにピアノ、ロープで吊るされたブランコがある。そして真正面にはドアのついた入口。ただしドアの両側は通れる様に何もない。一人芝居はあっちへ行ったりこっちへ行ったり、瞬時に人物を変えるので簡単に移動出来るというのは大切である。
強烈に台詞の嵐が降り注ぐのかと構えていたら、役者のアンドリュー・スコットが入ってきて、キッチンの所でゆっくり煙草をふかしはじめた。なんとなく意味深な雰囲気が漂う。
そして隣に置いてある椅子にこれまたゆっくり移動したりして会話している。
移動せず、顔だけ向き直して台詞を言っている所もある。慣れないとちょっと違和感があるかもしれない。
そして、役者は落ち着いた演技で弾丸の様な台詞回しは殆どない。台詞を話す前に何気ない会話があったり、現在の人物や感情を表す表情をしたり、案外長い間が存在する。
一旦物語の波に乗れるとなんとなくこうなのかなと想像力が働く。そこがミソで、全部演者が与えてしまうのではなく、観客に想像させるこのやりとり(演者と私を含めた観客との)が面白い。
椅子に座っていて役者が移動しなくても2人の人物が少し離れた所で会話をしているのだと想像がつく。
こういう時やってしまいがちなのが、2人の人物をはっきりさせようと座っていた椅子から急いでもう1人の人物のいるべく場所に移動し、演じてしまう事。こうすると場の雰囲気が崩れて観客が離れていく。魔法や呪文を使えない人間は瞬間移動は無理なのだ。
それを動かないとしたのは潔い。しかし役者にとってはもどかしい所かもしれない。
また、一人芝居なので役者の優劣が最も重要視されるかと思いきや、それだけではない。
勿論、役者のアンドリュー・スコットはいくつかの芝居で助演男優賞を受賞しており、素晴らしい役者かもしれない。ではそれだけでこの作品が出来ているのかというと、全くそうではなく、演出が物凄く効いている。
例えば、恋愛感情を抱いていた女性との別れのシーンでは上手く中心に据えられた扉を利用したり、別のシーンでは着ている上着と照明を巧みに変化させ、その状況を観客に想像させたりしている。本当、お見事である。
部屋には普通ないだろう長い綱のブランコがあり、なんだがそれに乗って喋っていると精神が落ち着かない様子がよく出ていた。
ピアノがあって序盤には役者が弾いていたのだが、終盤には鍵盤が自動で動いて曲を奏でているところに役者の弾く鍵盤の音が加わってなんともチェーホフらしい物悲しさを出している。
相手役者がいないけれど別の手段で、観ている者にその思いを十分に伝えている。とても興味深い2時間だった。 『芝居が役者が何人か集まらないと出来ないものが多いと思っていたが、役者1人でどんな作品でも出来るんじゃないか』
一人芝居「ワーニャ」はそう思わせてくれる作品だった。

そしてもう一つ興味があるのが、上映スタートが19時40分で約2時間の芝居の上演に人々はそんなに興味があるのだろうか? ましてやアントン•チェーホフ。芝居をやっていればともかく「誰その人」と思う方も多いのではないか。
さて、電車で宇都宮から乗り換えなしに1本で池袋に到着したものの、慣れていない町では、上映館シネ•リーブル池袋がなかなか探せない。スマホのアプリの道案内で探してみるが「目的地に到着しました」という。
『いや、私は到着していない!』
それでもなんとか探しあて、帰りのJRの乗り口を確認しながら現地に向かった。

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舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
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