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Logo Mark歯を磨く様に演じるハムレット公演@さいたま芸術劇場

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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久しぶりに彩の国さいたま芸術劇場を訪れた。名前“彩の国”を意識してだろうか、最寄りのJR駅を降りると優美に彩られた一面の薔薇の花に迎えられた。そんな事を思いつつ劇場に向かう。楽しみにしていたシェイクスピア作品ハムレットを観に来たのだ。
いつも楽しみに芝居公演を観に行くのだが、今回はいつもお世話になっているパントマイムの先生が出ているのでより楽しみなのだ。
さて、今回の芝居『ハムレット』は主役ハムレットに柿澤勇人さん、クローディアスが吉田鋼太郎さん、演出・上演台本も吉田鋼太郎さんである。
この物語の諸悪の根源であるクローディアス役が吉田鋼太郎さんはまあこんな感じだろうと思ったし、演出も王道でいくだろうと私なりに予想がついた。が、柿澤勇人さんは私の予想に反して凄かった。
会場の作りや、座っていた場所のせいかベテラン俳優陣の中にも台詞が少々聞きづらい方がいる中、柿澤さんは3時間20分程の作品でほぼ3時間出て台詞を言っているが、聞きやすいのだ。
また、ふと立っている姿が綺麗なのだ。
『あ、今5番の足で立っている!』
一緒に公演に出ている方も『柿澤さん、(台詞)噛まないしね。』と言っていた。
凄い練習量だっただろうし、昔、劇団四季で積み上げてきた物事の影響も大きいんだろうなと想像する。
さて、最近小さな会場で芝居を見慣れていたり稽古しているせいか、割と皆さん怒鳴って台詞を言っているのが最初気になった。勿論、そうしたシーンも多いし大ホールのキャパ800弱の会場に思いを瞬時に届けるにはそうしないと伝えづらいのかもしれない。
こう書くと否定的に聞こえるかもしれないが、人間の集中出来る時間というのは数十分で、訓練している人でも90分。この芝居、途中休憩が入ったにしろ3時間を超える舞台を飽きさせず保つには、怒鳴ると現したが、この気迫の様な吸引力が必要なのだろう。終演時には盛大なスタンディングオベーションが起こった。
余談だが、稽古の時点では4時間ほどあった作品を3時間25分にまでカットしたそうだ。『夜の公演だったら帰れなくなるもんね。』とそれを教えてくれた方は言っていたが、4時間でも私は観たかったなと思う。
あと私が素敵だと思ったのが、(いろんな方が素敵だったのだがあえて)オフィーリア役の北香那さん。演出の効果かもしれないが、心傷つけられ狂っていく姿も美しいのだ。
両手にミモザの束を持ちを振り回しながら狂っていくのだが、舞を舞っている様。なにをやっても綺麗で花がある。彼女を調べてみると3歳からバレエをやっているとの事で、納得である。
私がいたのが2階席で側面の壁に沿う様に並んだ前方の席。演者としてはそこから舞台袖の奥が見切れる(見える)と気にするところだが、こうして端の席に座っていると舞台の仕組みが垣間見られるところがあって私としてはある意味いい席なのだ。
今回も大きな神殿にある様な柱が瞬時に登場した。どうやって出しているのかと思ったら台車の様な長めの台を柱の端につけ、それを見えない所で押している。本当は見えないはずのものだが、ここなら僅かながら見えるのだ。
また、当たり前だが、暗転時舞台上に広がった物を残らず人の手で回収しなければならない。回収する各人が明るいうちに回収物をしっかり認知して回収したり、暗転時に床に光る小さな蓄光を頼りにミスする事なく回収するんだろうな。
なんて自分も転換要員の感覚になったりもする。
現代は様々なものが電動化、コンピュータ化されているのだが、こういう舞台のアナログな部分を見るとホッとする。
勿論、役者もアナログな仕事で、自分の鍛えられた身体と声を使い演じる。
それが公演時なんとも例えようのない圧力となって観客にひしひしと迫ってくる。日常生活から逸脱出来る時間なのだ。
これを求めて私はここにきているんだと思う。

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舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
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