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Logo Mark歯を磨く様に演じるシニア劇団第4回公演、私の濃密な1日

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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とうとう当日の朝となった。ずっと先の様に考えていた公演もあっという間にくるもので、いつもの様に起き、顔を洗い、まだまだ時間が有るとゆったり気分でトーストを食べていた午前7時過ぎ、一本の電話で余裕が一気に緊迫感に変わった。
『先生、どうしよう…。』
それはシニア劇団の出演メンバーからの体調不良の電話だった。しかもその方、劇中で1番台詞が多くて動きの多い役の方だった。
“まずい!”とは思ったが、何故か知らないが、こういう時私は酷く冷静なのだ。
頭の中で自問自答する。
『公演を延期する⁉︎』
『いや、今回それはしない方が良いだろう。出来ないだろう。』
『じゃ、私が出るか。台本持ちながら。(確率として少なそうだが)公演までに回復するかもしれないし。』
集合時間まで約1時間半。開場まで3時間。
まずは台本を印刷して、コンパクトに製本する(通常稽古で私が使っている台本は直したい箇所や音響きっかけその他諸々のものが書かれていて見づらい。しかも大きい)。
汗をよくかくと言っていたから前日衣装を持って帰ったかもしれない。
衣装を見繕う。ウサギの耳の飾りだが、私の動きはいつも大きいのでカチューシャでとまっている耳も細工しないと。
全く化粧もせず、台本と衣装とウサ耳を持ち会場へ車を走らせる。
何時でも開けられるし、道具を作る材料もある。こういう時、持ち小屋でよかったとつくづく思う。
彼女の置いてある衣装をチェックしたのちステージで一人台詞を声に出す。
『皆が来たら合わせてもらおう。』
9時集合だが、8時半を過ぎると役者が到着し始めた。
『すいません!役者体調不良の為、今日は鵜飼が“黄泉の使”をやります。あらかた準備が出来たら私と合わせてください。』
9時前から1場ずつ合わせ、(6場ある中)3場の途中までいった時再び電話が鳴った。体調を崩していた彼女からだ。
『行けそうです。到着はギリギリになると思います。』
元気の良い声ではなかったが、私もメンバーも安堵した。
勿論、私と役者との合わせはそこで終了。もしも、もしもの時の為、作った台本は目線の高さで目立ち、無くさない場所に置いておいた。私は物をよくなくす。そしてそれらはいらなくなってからいつも出てくるのだ。
さて、お手伝いの方も到着し、私も本日は裏方なのでお迎えの服装に着替え、受付やら雑多な事をしていると、間もなく開場の時間である。外では開場を待つお客様が沢山集まってきている。
また電話が鳴った。
『一度車を走らせたのですが、駄目そうで(家に)引き返しました。』
との連絡。開場4分前。
『本日は鵜飼が出る事になりました。宜しくお願い致します。』
と役者スタッフに無機質に声をかける。
“合わせていない芝居もあるが仕方がない。皆さん、どうにかやってくださるだろう。”
願いも込めた思いである。
芝居中は役と台本と舞台の居場所を気にしながら演じた。
激しく動いても台詞を見失わない様に。前の役者がどのルートで動いたか考えながら。芝居慣れしていない役者だと動きが変わると台詞が出てこないという事がある。
そして心配だったのが、合わせをしていない場。走って行ってかわされたり、投げられたり、技をかけられたりする所だ。
有難い事に相手は器用な方だったので、不思議な位難なく過ぎた。
結果芝居は滞りなくではなく、むしろ素敵なステージとなった。
本役の方が出ていたらもっと素敵になっただろうに…。
第4回スターライトの公演もシニアさんの安定感に包まれ、助けられた舞台だった。


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