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Logo Mark歯を磨く様に演じるトライ!舞台装置作成

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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今年もこれから宇都宮市芸術祭が開催され、その中に演劇部門もある。勿論こちらには参加する。
前回も参加し、その時はシェークスピア『テンペスト』でトリンキュローという道化師を演じた。おそらくこの役は男性が配役されることが多いと思う。
しかし、悲しいかな周りの演劇人を見渡しても男性は少数派。その結果、男性役を女性がやる事になるのだが、これは役だけではない。
昔いた商業劇団も男性が1人2人しかおらず、力仕事も高所作業も女性が担当だった。
そして芝居の仕込みで作る“大道具”これもまた女性が担当になったりする。
ある時、自分がその大道具の担当になってしまった…。気持ちは、
『どうしよう!』
その一言ですよ。
偉い先生から送られてくる絵と図面を元に作成するのだが、なんせ大道具は材料が相当かかっているので、作り始めてもし失敗したら、いいお金が飛んでいく。たまに先生の図面で作成すると公演バスに入らないという事もある。それも初心者には判断がつかない。
その時は外部から、いらしていた照明の方、演出の方にお手伝い頂きました。
そして装置に関し、以前からこれが出来たらと思っていた事がある。
どんな作品も創る人によって表現の仕方が違って、おのずと舞台装置(大道具)が異なってくる。これが素敵だと、やっぱり芝居も凄く良く見える。
そんな素敵な凄い大掛かりな装置を創ってみたいという事。
いきなりは無理で、まず第1関門の『作品イメージを形にする事』が必要になってくるわけだが、無い物を形にするのは、やり慣れていないとなかなか難しい。
私も挑戦し、作品を読んで何でもいいから紙にメモ画を書いていました。連想される山形、布のドレープ。細かくではなく、なんとなくこんな感じって。今もそれはやりますね。1人舞台作成時は。
前回の芸術祭の時は大道具を担当した。理由は予算があるので、そのお金でいつもより大きな装置が創れるから。
個人で創ると『この木材1本〇〇円するよ!しょうがないか、こっちの細いのにして、それも1本減らそう。』ってな訳で。
ここで作ったのが、大木1本、岩パネル2枚、椅子もどき岩を5つ。ただし最初のシーンでは舞台上に何も無く、幕開き、嵐のシーンの後、何も無かった舞台中央にドーンと大木が立ち、岩5つが現れるという装置。
これは寝ながらいつも考えていました。どんな形の木にするか。本物の木なのか象徴的な木なのか。デザインをどうするか。それに宇都宮市文化会館の舞台なので、そこに見劣りしないもの。それに予算はあるが潤沢な予算ではない。どうしたらそう出来るかって。
問題の大木は嵐で木材や瓦礫トタン板が流されるイメージで漂ってきて、数10秒で組み立てられる木。平な表面にカーペットを編んだ模様を貼りつけたデザイン。
そして重要なのが軽い事。以前、炉を大工の方に作って頂いた事があるが、大きいうえに非常に重く、先輩役者に渋い顔をされた。
『置いておくには素晴らしいが、暗転中に舞台転換するにはちょっとね…。』
だから軽い事は重要。なおかつその時は慣れない人が手早に舞台で組み立てられる様、取り外しが簡単にできる仕組みで作成した。折り畳み式の大木の幹に(これも嵐で流れてくる)、後から流れてきた瓦礫(木の枝)が蝶番によって付く。今は便利になったんですね。取り外しが出来る蝶番が売っているんだから。私の20代の頃は蝶番同士を繋ぐ中央の棒を抜き、そこに頭を曲げた太い釘(落とし釘)を差込でいました。
岩パネルも屏風方式で折り畳め、軽く1人で運べるよう創りましたよ。
有り難き事に、芝居を観てくださった方のアンケートの中に、
『あの装置、凄い!』
と書かれたものがあり、私は頬が緩んだのでございます。だって舞台装置の感想なんてアンケートに書かないじゃないですか。そこを書いてくれたんですから。

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鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
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