[ Spinart(スピナート) ] - あらゆる表現者・アーティストと出逢えるサイト

Logo Mark連載記事

Logo Mark歯を磨く様に演じるふくらし粉

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

続きを読む

毎日の様にパンを作る私。自分の作ったパンを見てこれまた毎日の様に自画自賛するのだが(笑)、割と長い間パンという作品を作っているので、最近は生地と相性がよく、このロール系のパンはそろそろ発酵する頃だろうなとか、こいつは弱火で焼いた方がいい等、調整ができるようになってきた。
私と共に仕事をしてくれているのが勿論、ふくらし粉、イースト等なのだ。
物語を作る時、高級酵母菌の類でなくたっていい、物語に合う様な手軽なイースト菌があればなぁ。
ここで芝居の話になるのだが、市民が参加するパフォーマンスで、絵本を元にミュージカルを作る企画が進んでいる栃木県内の町がある。絵本というと、ストーリーが短いものが多く、当たり前だが絵がページの大部分を占めていて、話だけをそのまま芝居にするとあっという間に終わってしまう。
ところが今回それを担当する演出家さんは、絵本のストーリーにもともと無かったあるシーンを加えて、とてもファンタスティックな素敵な台本に仕上げたそうだ。勿論、本筋やその本がもたらす効果は変えていない。それに対し、参加者の知人が興奮モード全開に放ったのがこの言葉だった。
『○○さん(演出)の“ふくらし粉”が凄いんだよ!!』
『ふくらし粉』
ピッタリのワードだ。
どうやったらそんな魔法の粉が使えるだろう。
原材料はおそらく自分の体験したことや、聞いた事、読んだ事、考え感じた事だろう。
こうだったらいいなと、無いものねだりの上手な人こそ、高級ふくらし粉を持っているのかもしれない。発明の世界と同じかも。
話は変わるのだが、最近特に時間の経つスピードが速すぎて困ってしまう。原因は解っている。いちいちいろんな所で立ち止まって悩んでいるからだ。
『行くべきか行かざるべきか、それが問題だ。』
『これを食べるべきか食べざるべきか、それが問題だ。』
『今、この部屋を掃除すべきかせざるべきか、それが問題だ。』
掃除に関しては明らかに、した方が良い(笑)。
しかし、偉大な劇作家シェークスピアもハムレットで言っている。
『生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ。』
おー、悩んでいるではないか⁉︎
私の場合も、もしかしたら、この悩みをもっともっと悩みこんで、こうだったらいいなと妄想の世界に到達するまで悩んだら、シェークスピアとまではいかなくても、ちょっとした“ふくらし粉”の一粒になるかもしれない。
しかし、私のふくらし粉の素(あえてこう言わせてもらおう)、意外と難点があって、使用可能な時間帯が決まっており、それ以外の時間に使用しても全く効果なく、時間だけを無駄に消費する悪者になってしまう。そしてその効果絶大の時間帯が“朝”。それも起床直後。
大まかの仕事を夜までに終え、午後10時頃からもう一仕事と思って取り掛かっても一向に終わらない。どうやら脳の1日の処理能力を超えてしまっている様で、散歩に出て突然歩かなくなった大型犬のように、引っ張ろうにもうんともすんとも私の脳は動いてくれない。
調べてみると人間にはひらめきの時間帯があってその一つが朝なのだ。前日フル回転した脳が睡眠によって情報を処理し、スッキリした状態で脳が朝を迎え、処理能力がアップするのだそうだ。
しかし、悩むのは朝限定とまではいかないが、まずは悩んだら悩みのスピードをもっともっと加速させ、妄想の世界まで突き抜けてみるといいかもしれない。そしたら違う世界が見え面白い芝居が出来るかも。
『私のふくらし粉!!』
そう超現実主義者の私は希望を持ち、今日1日を始める。

この記事への感想はこちらへどうぞ

この記事への感想を送る


鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

続きを読む