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Logo Mark歯を磨く様に演じる舞台での存在感

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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7月4日(日)第42回宇都宮市民芸術祭演劇公演が行われた。参加者は地元の劇団員や市民芸術祭演劇公演常連者、そして通常は芝居などやっていないメンバーで、彼らが集って短い稽古で発表に至り、そして無事に終演した。私も参加した。久しぶりに大きなホールから跳ね返る自分の声を聞きながら演じるのはなんとも懐かしい。
ところで当たり前だが人間には器用な人と不器用な人とがいる。それだから役者にも器用な人と不器用な人とがいるわけで…。まあ、どちらが良いという訳ではない。
教える方の労力と結果を考えると、器用者に軍配があがるかもしれない。器用な人に芝居中の様々な場面を任せてしまった方がはっきり言って“楽”なのだ。しかし、存在感はちょっと違ってくる様な感じがする。どちらかというと、不器用な人の方が良かったり、彼らが生み出したものの方が観た人の心に深く残ったりもする。
その作用はどこからくるのか…。
勿論、不器用な人がそのままの状態で舞台にのると悪目立ちするのだが、多くの器用ではない者は何度も何度も考えたり、練習したりする。その為かその人の中に幾つもの人物の歴史が刻み込まれ、本人と共にその人物が演者の中で育っていく。行動も考え方も。それが心に刺さる名シーンの一部になるのではなかろうか。
その一方で器用な人はそこまでやらなくてもサラッとできてしまう。不器用者には羨ましく思える能力ではあるが、形だけのものになりがちでもある。
しかし、使う側にとってはやっぱり器用者がいいのかなぁ。
学生時代、放送局でドラマ制作のアルバイトをしていた。その時、ある役者さんが太鼓を叩くシーンがあり、事前に太鼓の練習時間が欲しいとスタッフにお願いをしていた。結果、練習時間は用意されたのだが、男優さんが去ったあと私はスタッフの衝撃的一言を聞いてしまった。
『次回は〇〇さん、使うのやめよう。』
確かに毎晩深夜まで働くスタッフ側としてはそう思うのは当然だろう。でも、学生だった私はとてもショックだったのを覚えている。
私も不器用者の一員で、芝居を始めた頃は全然出来なくて、何年もの間、先輩方を悩ませた。石の上にも3年という言葉があるが、私の場合3年では実らない。
『5年待って。5年経ったら良い役者になるから。』と言ってくれた有難い先輩もいた。良かったよ。ゆったり待ってくれる所で芝居が出来て。5年目には当たり役と言われる役も出来て、先輩の顔を潰さずほっといたしました。
7月4日の芸術祭の話に戻るが、今回の公演は劇中でアクシデント?があった。台詞を忘れた役者さんがいた。通常なら不器用さんでも、忘れた事をさほど観客に気にさせず、忘れた張本人や共演者らがすんなり進めるのだが、今回はちょっと違っていた。その瞬間異様な空気が会場全体に漂い、観客も明らかに、
『あの人忘れた。大丈夫か⁉︎』
と不安に思わせたシーンがあった。当の本人が一番困ったんだろう。
役者がセリフを忘れるのは度々あるが、観客に『あの人忘れた。大丈夫?』と思わせるのは振り分けるとするなら“失敗”の部類に分類されるのだが、今回はその空気を感じた瞬間、観客の心が舞台により集中した。
『頑張れ!』と観客の多くが心で思ったに違いない。
共演者も助け合いながら、公演が進む。素晴らしい一場面が出来上がった様だ。
私はそちらの芝居には出演していなかったので、生でそのシーンは体験出来なく残念?だったが、とても奇跡的な場面となった様だ。
プロの役者には許されない状況がおこったのかもしれないが、この奇跡的シーンで舞台にいた人達は、その作られた物語の中で生きることにもがき、一生懸命前進していたんだなと思った。それが存在感なのかな…。

8月8日(日)14時〜 オンラインZOOM 舞台公演 小泉八雲『夏の日の夢』

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舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
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