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Logo Mark歯を磨く様に演じる映画…。熱意。

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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先日、栃木県鹿沼市で撮影された映画が1日限定でMOVIX宇都宮で公開され、私も観に行かせてもらった。タイトルは『ほうきに願いを』。これは由緒ある鹿沼箒がモチーフになった物語。
この映画が生まれる前からのさざ波的動きを見聞きしつつ、完成したこの映画を観られたのは少し面白い経験だった。
事の始まりは宇都宮で映画を撮りたいと考えていた男性が主催したワークショップ。私も知人から『参加者が少ないみたいで(困っている)。』と誘われ、そのワークショップに参加した。その講師が今回の映画の監督、脚本を担当した五藤利弘さん。
確か講座は、以前監督が撮った映画のワンシーンを使ってのプラクティスで、私には舞台芝居と違った演じ方に感じられ、面白い体験をさせてもらった。
有難い事に私も後程それと並行して行われた発声のワークショップの講師をさせてもらう事にもなった。
この映画の原案者は五藤監督のワークショップに参加された鹿沼市にお店のある大阪屋『夢箒』店店主の鈴木隆さん。彼が猛アプローチし、チャンスをものにしたのだ。
映画のパンフレットには彼の事がこう書かれている。
『…自身が数年前に前立腺がんを患い人生を振り返た際に「自分のこれまでを記録として残したい」と考えたことから自伝的な映画制作を発起。』(映画パンフレットのイントロダクションより)
最初、私の耳に入ってきたのは参加者の中で映画を撮りたい人がいて監督にアプローチしているという事。しかし、進んでいる動きがみられない。
『まあ、そうだよね。映画関係者でもない人が映画を作るなんて、ちょっと難しいからね。』と心の中で私も当然の事に思っていた。
それでもそのうち「原稿が…」だの「書き直しが…」だの、話がゆっくりではあるが聞かれる様になり、私も驚いた。
『進んでるじゃない!凄い!』
鈴木さんの投げた一片の石的な思いが大河の水面に広がって、結果このMOVIX宇都宮での上映まで漕ぎ着けたのだ(勿論、五藤監督の尽力もあろう)。
鈴木さん、とても熱心な方で、映画上演の数週間前、私の芝居公演に映画のパンフレット持参でいらした。エリート営業マン顔負けだ。
パンフレットには細かい字でびっしり鈴木さんの原文そのままの原案も書かれている。あまりに細かすぎて映画鑑賞前には読めず、映画を観た後、その余韻と共に有難く隅々まで読ませて頂きましたよ。
こんな多量の原案を3回ほど監督と相談して書き直したんだ…。
『よく断念しなかったな』
映画の席は驚きの偶然だが、なんと原案者鈴木さんのお隣。
モロ師岡さんが演じた役のモデルがこの鈴木さんで、映画を観ながら横の方と重ねて面白く観ている自分がいる。
『さすがモロ師岡さん。動作というか仕草もお隣の方と似てる。』
そしてまた驚くのが、この映画制作に協力された方、後援された所が非常に多く、それらがこれまた細かい字でパンフレットに掲載されている。
「ほうきに願いを」制作委員会まである。
私の知人も箒作り講座の生徒として少し出演したので、パンフレットにもエンドロールにも名前が書かれ、これまた喜んでいた。
こんなに、多くの人や所を動かし巻き込める力も素晴らしく、羨ましい。
この映画『ほうきに願いを』は(私が鑑賞した時点で)今後も県外いくつかの映画館で上映が決まっている。
こんなにまわりを動かした映画原案者の底力を私も見習わねばと思う夏の日々である。

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鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
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