[ Spinart(スピナート) ] - あらゆる表現者・アーティストと出逢えるサイト

Logo Mark連載記事

Logo Mark歯を磨く様に演じる子供達と舞台公演

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

続きを読む

このコロナ禍において、コンスタントにオフラインでの公演が持てるのは本当に有難い事だと常々思っている。
先日はある学童さんからアトリエほんまる(小劇場)にて小学生向けに公演をして欲しいと依頼があった。夏休み、子供達に朗読舞台公演と非日常の劇場空間を体験させたいとの事だ。
演目は見た目に可愛らしく動きのある又、小道具を多様した演出の宮沢賢治『猫の事務所』を選んだ。
少し心配だったのは、宮沢賢治作品はちょっと難しいかな?という事。でも、ある学校の先生がお話されていた。
『小さな子には難しいとか、わからないのではなく、その子なりの見方がある。』って事。
公演をしてみるとその通り。小学校低学年もいたのだが、公演しながら、子供達の真剣な眼差しが舞台上にいる私の所にひしひしと伝わってきた。
作品は30分程度で無事終演。
その後はお楽しみという事で、ライティングのデモンストレーション。
演者も劇場スタッフも私1人でこなす公演だったので、照明調光卓も私の手の届く所に事前に設置して置いた。
客電消すのも私、自ら舞台の明かりを入れて、舞台に上り、袖に去って照明を消す。そんな事をしながら演じていた。
まぁ今回は良い方かも。オフィススペースに公演用の雪籠を吊った時なんかは、舞台上に音響装置を置き音を出し、必要な時自分で雪を降らせに(雪籠の紐を引っ張りに)袖幕にいったもの。一人での公演仕事はそんなものよ。
子供達は照明の調光を目の前で見るのは初めてで、頭上のライトが赤→青→緑と変化するに従って『ワー!』と歓声をあげる。
そして子供達だけでなく大人の関心をもひく“サンプリングパッド”のお試し。
触ってみたい子供達で列が出来た。ちっぽけな長方形の箱から800近い、それも変わった音が出るのはやっぱり不思議なんだろう。
おまけは劇場案内という事で、
『役者さんが準備したり、待っていたりする所ですよ。』
と楽屋にもお連れし、最後に少しだけ子供達に感想を聞いたら、しっかり答えてくれて、
『この道具は自分で作ったんですか?』と高学年の男の子。
よくぞ聞いてくれた!
『そうです、そうです。全て私が作りました。』
『猫が何匹か出てくるでしょ。猫達が使う仕事机はその猫ちゃんの趣味の机。だから冷蔵庫だったり、お魚が泳いでいたり…。ただしイジメられ猫はみんなのゴミ箱の様な机ね。机に引っ掻き傷があったり。』
こんな会話がしばし続き、久しぶりに子供達と貴重な時間を過ごさせてもらった。
芝居を始めた頃、毎日毎日学校公演があって、毎日毎日思うようにいかなくて、それでも毎日毎日与えられた役をこなさなくてはいけない。
どんよりした気持ちで公演バスに乗り、どんよりした気持ちで公演バスで帰ってくる。そんな時、事務所に届いていたのが小学校から送られてきた子供達のお手紙だったり絵だったり。
“…大きくなったら〇〇のよう(私のやっていた役)になりたいです…”
なんて良い子なんだろう…。
当時、それを読んだ共に下っ端の私ともう1人の女の子は、
『これ、救われるよね。こんなの読むと明日も頑張ろうって思うもん。』
と呟いておりました。

この記事への感想はこちらへどうぞ

この記事への感想を送る


鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

続きを読む