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Logo Mark歯を磨く様に演じる魔法の時間、午前3時

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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シンデレラには魔法の時間があって、魔女が魔法を使って舞踏会へ行けるようにしてくれた。そして、『深夜0時を過ぎれば全ての魔法が解けてしまうから0時までには帰ってくるように』と。
私にもそんな素敵な“魔法の時間”がある。私の場合は朝3時。この時間に時計のアラームをセットしておく。3時に魔法がかけられ始め、そして3時50分頃には魔法が解け始め、午前5時には完全に魔法が解けてしまう。そう、世間の雑踏に揉まれ始める時間。
魔法の時間にする事は、本を読んだり、文章を書いてみたり、放送原稿を作ってみたり、絵を描いてみたり、流石にこの時間にドタバタと身体を動かす事は憚られるが、それでもこんな事が出来たらいいなとか、こんな自分になったらいいなと夢を見ながら事を起こせる時間。不思議なことにこの時間、脳もゲル状に柔らかく、いろんな事が吸収できて物事もスムーズに進む。
今の時期、この時間に聞こえるのは“ぷわん”と柔らかな空気の中に屋根を打つ雨音や虫の声。なんか、
『自由におやりなさいな…』
なんて脳波に囁かれている様な感覚。義務でもなければ、誰かからお願いされた事でも無い。幼児がなんか太陽を赤ではなく、塗ってみたい青色のクレパスで塗っていてもいい様な時間(幼稚園児の時、これをやったら先生に心配された事がある…)。
ただし、条件があって前の日の深夜まで日頃の雑務に追われていると、そのプレゼントたる時間はどこかに呆気なく消え、また毎日の慌しさの続きがいきなりスタートしてしまう。
また、別の条件もあって、日頃これやってみたいなとか、こんな風になりたいなとかの目標とまでは力強くはないが、そんなものがないとこれまた魔法の時間はやってこない。
そしてこの時間には長らく悩んでいる事もすとーんと決定がくだされる。
脳科学の観点からも朝は、脳が1日の中で最もよく働く時間帯の様で、睡眠によって脳が休息を取ったあとのリフレッシュ状態になっているので、脳を使う勉強にはまさにゴールデンタイム、なんて事も書かれている。
実際は朝起きた脳にもウォーミングアップが必要らしく、起きて数時間後によく働く様になるとの事だが…。
しかし、私の場合はなんとなく覚醒している様なしていない様な状態の時に義務でも無いなんとなくやりたい事をやるのがいい。
その脳の感覚はあくまでも“ふわーん”としていて、少々本能に任せている所があって、ちょっと快適で、いい感じ。
それに対して魔の時間もある。私の場合は夜。その日の状態によって夜何時とは具体的には設定できないのだが、夜は何をやってもめっきり駄目。睡魔も襲ってくる。
仕事が上手く進まず、夜に持ち込んで仕舞う事もあるのだが、本当に進まない。眠気を我慢してやってみるのだが、大概おかしな事になっているので、やっても後でやり直しするとか、資料を抱えたまま寝落ちしているかのどちらか。本など読もうものなら一瞬で、意識のブレーカーが落ちる。
たまに作品選びで、夜朗読をしていることもあるのだが、なんとなく文章を口に出しているのか寝ているのかなんだかわからない。体を使っているのにやっぱりダメなんだと残念に思うが仕方がない。
そういえば、昔おそらく製作作業に忙しくてあまり寝ていなかったんだと思う。芝居の舞台上で寝てしまった事が2回程あるのを思い出した。1回は稽古の時。それも設定が悪い。ベッドに寝ているシーンだったからほんとに寝てしまった。
もう1回は野田版「真夏の夜の夢」の公演本番で妖精の王女タイテーニアをやっている時。木の根元で寝ているシーンがあって、本当に眠りに落ち、目覚めた時はどのシーンを今やっているのか頭の中の少々古くなったスーパーコンピュータが大回転致しました。
こんなことを考えるでもなく、ぼんやりとやりたい事や本能に素直に操られる事の出来る午前3時は、私にとっての長い将来に魔法をかけたお時間でございます。

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鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
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