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Logo Mark歯を磨く様に演じるバカバカシイこと、くだらないことを本気でする公演

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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今回のオンラインの公演作品は迷った末に、コロナが叫ばれ始めた2020年の3月に公演するはずだったが、
『コロナの状況なんてすぐ終わるよ!』
と少々安易な考えもあり、人生初の公演中止を決意した作品、坂口安吾の『風博士』にした。今までは、熱が39度を超えても、声が出なくても板の上にはのっていたのに。なんかふに落ちない。
その一方で公演を中止した当時もなんか面白そうだけれど、どうやって良いかなかなか思いつかず、当時の私にとってはこのコロナのせいで中止というのはある意味好都合だった。
でもあれから丸3年。やっぱりなんだかわからないけどやってみたくなった。
『風博士』を読むと難しい言葉も多くて煙に巻かれている様で、初めはなんだか良くわからない。この面白味が瞬時にわかったら、その方は相当文学にたけている人だと思う。作品について調べてみると“ナンセンス文学”なんて書いてあったりする。
不条理劇なんてものを商業劇団時代に中学生、大人に向けやった事があるが、なかなか素敵な感想は頂けなかった。普通の事じゃないので理解しようとしても納得出来ないからだろう。
ちなみにナンセンス文学をインターネットで調べてみると「ナンセンス」の多くは本質的にはユーモアに属するが、それは「意味を成す」ことによって面白みが引き出される大多数のユーモアとは反対に、「意味を成さないこと」によって成立するユーモアである、なんて書いてある。
わからないけど、なんとなくやってみたい感覚だけで出発した。
まず風博士の人物像から想像する。決して私の考えた像が一般的でないのはわかっている。バカバカシイとも思う。
でも、照れながら冗談を言ったら、全く面白くないのと一緒で、中途半端はダメ。
彼はどんな実験室にいるのだろう?
どうゆう状態なんだろう?
対立している蛸博士をどの位苦手か?
いろいろ考えていた。
風に押されて歩くパントマイムも教わった。マイムの先生も面白い作品と言ってくれた。こう言ってもらえると少し安心する。
夏目漱石の『坊ちゃん』や芥川龍之介の『羅生門』の様に模範的素晴らしい作品として、教科書に載ったりしている物をやる時は、それだけで、中味空っぽでも極端に言えば安心感があるが、この作品においては残念かな、ない。いや、少ないと言っておこう。坂口安吾だし。ただ素晴らしい作品ではないとは言っていない。
もう、公演日も決めた。とりあえず勢いで取り掛かる。
風博士の研究室では、何時も風が吹いていたりして。天気図が気になるので天気図に囲まれたり。架空の人物なので、私の好き勝手にさせてもらう。
もう殆ど使わなくなった扇風機を出し、椅子の上に乗せ、風にあたりながら教えてもらった、風に吹かれたマイムをやりながら台詞をいう。髪の毛がいい具合になびく。風邪をひかないかが心配。でもT.M.Revolutionの『HOT LIMIT』みたい(現実はあんなにカッコよくはない)。
シーンを変えるため、舞台を人力で回転させる“まわり舞台”を作った事があるが、今回はこれもしてみようと、自分を映しているiPadを動かす。細かく調整されている画面の映りが少々ズレる事もあるが、やっている事がいろいろアナログの為ご愛嬌という事で。
そうだ!トイレに貼ってある葉書だ!
『なんでもいいからさ 本気でやってごらん 本気でやればたのしいから 本気でやればつかれないから つかれても つかれがさわやかだから。』相田みつを
こうなったら、みつをさんにも応援してもらう。
やってるうちに自信がなかったがドンドン遊び心が湧いてくる。
いろんなことをしながら台詞を話す。聞き慣れない難しい言葉も沢山出てくるので、遊び心も大切にしながらもお客様に対しては、何を言いたいかはハッキリさせる。
バカバカしいし、くだらない事をしているかもしれないが、本人はいたって本気で取り組んでいる。

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鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
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