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Logo Mark歯を磨く様に演じる仕事の楽しみ

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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先日、車を運転しながらラジオを聞いていた。運転しながらラジオを聴くのは私にとって頭の中にちょっとした余白、ゆとりがある時で、何か考える隙があるわけだ。
そんな少々心が穏やかな時に聴こえてきたラジオのトークである。
それはeスポーツのプロがゲーム(ゲームとは別の言い方をした様だが…)について語っていた。
『ゲームが面白いとか楽しいとかは考えない。それは仕事。』
『例え長時間ゲームをしていても、面白いだけでやっているなら趣味でやっている中の上手い人にしかなれない。プロになるなら、自分の弱点を克服するようにやるとか…。』
聞いていた私も『確かに!』と思い、自分を振り返る。
私もそこそこの年数お金を頂いて芝居や朗読をやっている。トークした方と同じで、やっぱり芝居や朗読が面白い、楽しいとはあまり考えていない。
勿論「楽しいですよね。」と言われると同調した様に「そうですね。楽しいですね。」とは答えもするが、やっぱりなんとなく違う。仕事だから。
仕事だからより良いものにするためにできないことも改善しなくてはいけないのだが、たやすいことでは無い。
そして何年やっていても自分の弱点を注視するのはあまりしたくない。
昨年、シニア劇団の公演の為、稽古風景を何度も動画にした。劇団メンバーが自分自身を客観的に見られる様に(人に言われるとなかなか素直に飲み込めない事もあるが、自分がそう思えば変わってくる。そんな思いも有りまして)。
だだお一人だけ1回も見なかった方がいて、その理由を聞いたら、
『自分の演じているのを見たくない。』
という事だったが、この気持ち私もよくよくわかる。むしろこの方以外の撮影するたびに見てくれた方々が凄いと思ってしまう。よく自分の弱点を注視出来るなと。
しかし、結果として見ていた方々は私が口にしなくても、どんどん良い方に変化していったし、見なかった方は言われたところさえ、なかなか改善されなく、他のメンバーをも困らせていた。
自分の場合は芝居、朗読が仕事であり、
『(自分のやったのを)見たくない。聞きたくない。』では済まされず、好き嫌いの感情に蓋をし行う様にしている。
そんなふうに仕事をしていて何が楽しいのかと問われると、芝居、朗読が楽しいと言うより、未だに出来る事が徐々に増えていくのが面白いと言うのが1番近い。
少し前に読んだ『〆切本』という本の中にちょっと興味深く私の心を安堵させ、深く共感させるものがあったのでここに書いておこうと思う。物事、仕事と言えどすんなりできるものではないということがよくわかる。
それは『蒲団』『少女病』『縁』などの作品を書いた有名な小説家田山花袋の話だが、彼ほどの大小説家でもいつもスラスラと文章が書けていたわけではなく、書けない時は機嫌が悪くなり、いろんな事に当たり散らし、妻子を罵ったりする。
「ああ、いやだ、いやだ。小説なんか書くのはいやだ。」と言ったり、終いには筆と紙を見るのが苦しくなったりした。
良いじゃないですか、ブラボー! 大小説家がちょっと自分と近くなった感じ。
彼みたいな大物が子供みたいに駄々をこねつつ小説を書いていた。その結果素晴らしい作品が出来上がる。書き上がった時はスカッとするんだろうな。
“楽しむ事だけを追求するなら仕事にしない方がいい”というのは往々にしてあたっていると思うが、仕事にした方が一定のレベル以上で行う必要があるし、その行う頻度が増えるので結果上手くなっていく。その自分自身の進歩、進化が楽しいと思う。

8月24日 海野十三『ある宇宙塵の秘密』

8月24日(木) 13:30開演。
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舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
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