連載記事2026/11/04
脳内伝言板
いぶし銀の里 3
静岡県出身、造形家/演奏家。
農業高校造園科卒業、美術音楽共に独学。
美術家、演奏家、パーカッション、ディジュリドゥ、ムビラ奏者。
20代前半人...
あれよあれよという間に時は過ぎていき気が付けば那須での個展が始まった。
時々雨が降っては止み、晴れ間が見えたりという天候なのだけれど、季節も良く清々しくて気持ちがいい。
朝から里守さんが焚き火でお湯を沸かして来場者にお茶を振舞って、のんびりと会話を楽しむ空間を目の当たりにする。
ホッとする時間が流れている。
作品は基本的にはその場に立ち自由に感じていただけたら嬉しい。
とは言え作者としての考えに興味のある方も少なくないようなので、いぶし銀の里の作品について私の考えをこの場をかりて下記3つに分けて記しておきたいと思う。
1. 救世種 種について
2. 救世種の丘 場について
3. 導(矢印)について
いぶし銀の里にある作品は、私のこれまでの創作の原点から集大成のような作品である。
私は昔から、植物の種に強く惹かれている。
種には何とも言えない魅力がある。色や形の美しさもあるが、種は原始的なはずなのに未来的にも見えてくる。私の彫刻作品は植物の持つ曲線や種の持つ生命力から大きな影響を受けている。
種の中には動物に付着する形状のものがある。これはどう考えても動物がいる事を認識しているとしか言いようがない。植物には意識や意思があると思えて仕方がない。わざわざ鳥に食べられて遠くへ種を運ぶ。鳥がいることを知り、鳥の好みの色や味覚があることを知っている。消化されずに栄養素まで確保できることを知っている。また植物の種は例えばタンポポの綿毛一つ一つ発芽する条件が違うという。これは零れ落ちた種全てが翌年発芽してもし途中で日照りなどが起きた場合その種は絶えてしまうからだという。という事は当然、気温や湿度や水分等、あんな小さな種の状態で感知する能力があるという。森林の自然火災の後に発芽する種もあるという。これは地表の温度が高温になったことを察知すると休眠を解除し発芽する。
植物は水を吸い上げ浄化し酸素を生み出す。他の生命体の糧となり太古から地球上の命には必要不可欠な生命である。また、私が生まれた数十年間の間には幾つもの絶滅した植物があるという。地球を救い続けてきた救世主のような植物たちと地球上の命総てが影響しあって今を刻んでいる。私にはそのことわりを説明することは出来ないが、それでも繋がっている事を感じて生きてる。ここは植物と動物の共存しているホシなのだから。
私は普段、素材や場の空気や取り巻く環境等から感じた感覚を頼りに素材と同調するように、見えない結果に向かっていく冒険的なやり方で作品を制作していく。今回のいぶし銀の里で制作した救世種の丘は、ある程度プランは決めて因果律に従って制作するやり方と普段の創作の時のような冒険的で先の見えない制作を混ぜた感覚を用いて制作した作品である。
いわばいぶし銀の里は私の冒険の場でもある。石と向き合い、森と対話する。直感したものを、悟性で解く。ここに集まったバラバラな情報を持つモノたちを、種を軸に感性で繋ぎ、自己に内在している場と現実の場を繋ぐ。種を内包する事で、この場と過去、現在、未来の時間をつなぎ合わせて大きな循環の中に救世種の丘は出来ている。
これは普段アトリエで制作している作品とは違い、自然と社会と場と作品と私の思考(制作)の全てが噛み合わなければこの作品は生まれてこない。
そしていぶし銀の里は開かれた場であり、一度生まれ出た作品は自然と人を調和し、多様な人と多様な感性を受け入れ、社会との接点となり、大なり小なり対峙した人への影響が生まれ、常に生きている場(生の場)となる。場が出来たことで新たなエネルギーが生まれ、流れ始めて行く。場が有ることは新たなコミュニケーションが生まれる可能性をもたらし、それは時に自由な思考が生まれ意識の相乗が生まれる。
そうやって無機物である作品が良くも悪くも見る者を介して有機的な生き物のように意識に働きかける。森との調和の中にある、いぶし銀の里。その場に立つ事で同調するにせよ反発するにせよ、あなたは作品の中に入り込んでいるのである。これが私の考える場の意味であり、今回制作した作品の最大のメッセージである。そしてこの場から物語が生まれそれはやがて独り歩きしていく。
30年程前、旅の最中に珊瑚の砂を手に入れた。その砂を使って「渦」を描いた油絵の作品「向こう側の銀河」を制作した。その後、直線と右曲と左曲がりの小さな矢印の銅版画を制作した。一つ一つは小さい作品なのだが直線と右曲と左曲がりの3種類を複数制作し繋がるように壁に掛けることで大きな絵画となる。そうやって「向こう側の銀河への地図」(矢印の作品)が生まれた。その後6mほどの長い矢印を描いたり、矢印をモチーフにした木彫刻や石彫刻を制作していった。矢印は単に無機質な記号でありながら制作してみると私には有機的な生き物のように感じられていった。そうやって何かにとりつかれるかのように制作にのめり込んでいった。制作していく中で私にとって矢印は有機的であり生命力の証であると共に、こっちだよと道を示すというよりは、バラバラに起こる人生の事象を繋いでいく印のようなものになっていった。それは私の多岐にわたる作品を繋ぐことも出来る魔法のような印でもあった。以来、大小様々な矢印を作品の中に人知れず刻んできた。そうやって矢印は私の人生の地図になっていった。
私はこれまでかなりの事を独学で学んできた。そんな私にも時折誰かがほんの少しだけ足元を照らしてくれていた気がする。それは先人たちの残してくれた息吹みたいなものであったが、不安の中を歩きながらも支えられてここまで歩いてくることが出来た。誰しも未来は見えない。それは暗闇に向かい歩いているのかもしれない。だが振り返ると確かに道が出来ている。そうやって皆、自分だけの導を刻んでいく。だがそれはいつか誰かの導になるのかもしれない。
TOP写真は「救世種の丘」2026年 白砂勝敏制作 いぶし銀の里。

2026年セミナーとアート・立ち止まる場「いぶし銀の里」に、大型の常設野外作品を8点を制作させて頂きました。
約4500坪の森の中を散策しながら作品を楽しんで頂けます。
期間中、全日在廊し、「始まりの石」を始め小作品も展示致します。
この機会に是非お出かけ頂けましたら幸いです。
白砂勝敏
日時 :2026年10月31日(土)〜11月8日(日)
10:00〜16:00 ※期間中無休
作家全日在廊予定
入場料:無料
※入場無料ですが、お車でお越しの際は駐車料金1台1,000円(里の協力金として)となります。
場所 :セミナーとアート「いぶし銀の里」
〒325-0114
栃木県那須塩原市戸田650-1
・東北自動車道「黒磯板室IC」「那須IC」より車で約15分
・東北新幹線「那須塩原駅」より車で約23分
・JR東北本線「黒磯駅」より車で約19分
・「那須塩原駅」「黒磯駅」より、関東自動車バス「板室温泉行」にて「戸田」バス停下車、徒歩約9分
(バス運行本数が少ないのでお時間ご確認下さい)
お問い合わせ:いぶし銀の里 tel:080‐2837-7700
静岡県出身、造形家/演奏家。
農業高校造園科卒業、美術音楽共に独学。
美術家、演奏家、パーカッション、ディジュリドゥ、ムビラ奏者。
20代前半人...
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