連載記事2026/07/08
なにか創るとうれしくて
「はいそこでナンパして!」〜カラオケビデオに出演した話
その当時バイトで働いていた小さな広告代理店での昼下がり…え? そんなところでなにをやっていたんだって? いやその…一応グラフィック・デザイナーの端くれ的な仕事をメインに、コピーも書くしイラストも描くしレイアウトもするなんてことをやっておりましたとさ。時代的にはまだDTPなんてものが影も形もない時代で…つか、ワープロがようやくという感じで、イラスト類もすべて手描きだった時代です。その頃の自分はと言えばバンド活動をガンガン頑張っていた時期で、今は既に痕跡すら残っていない頭髪も背中の真ん中あたりまであったなんていうもはや遠い目でしか語れない大昔のお話。
ある日の昼下がりのこと、その会社の社長だったか役員の誰かだったかの友人だという映像系の仕事をしているという方がやってきまして(それまでも時々来ていたんだけど)、突然こんなことを言い出しましたとさ。
「ねぇねぇシミズ君ってバンドやってるよね。今度ビデオ出ない?」
はぁ?…である。そもそもぶっちゃけその人はいつもちょっと調子がいいというかノリが軽いというか、普段話している感じも本気なのか冗談なのかちょっと判断に困るような感じだったので、その時もなにかの冗談かと思ったし、もっと言えば、なにやら怪しいビデオの話なのかとすら思ったくらいだった(実はそれからだいぶ後に別の人からそういうビデオへの出演を誘われたこともあったなぁ…すぐ断ったからそれっきりだったけど、今思えば一度くらい出ておいても面白かったかもw)。
「いや、ちゃんとしたカラオケビデオだってば。カラオケ行くでしょ? あの曲の背景で流れてるやつ。あれ作る仕事してるんだよね。」
こちらが怪しんでいる雰囲気は完璧に察していたようで矢継ぎ早にいろいろと説明してくれる…まぁそれがまたちょっと怪しいんだけど。
「会社もちゃんとしたところだよ。知ってるでしょ? 日光堂。あそこのカラオケで流れるやつ。」
日光堂とは、カラオケがまだ8トラと呼ばれたでっかいカセットだった時代の黎明期からカラオケの機械を供給していた会社で、この当時には「NIKKODO」という欧文表記でけっこうぶいぶい言っていた会社だった(確かこの頃業界2位くらいじゃなかったっけな?)。
「ついでにシミズ君たちのバンドのプロモーションビデオも撮ってあげるからさぁ。」
…なんてけっこうしっかりと口説いていただいたりもして、とは言え自分たちみたいな名も知れぬバンドでいいのかとは思ったものの、要はバンドシーンが撮りたいというのでじゃあやらせていただきますということになった。
時期的には2月。その日は幸い快晴…いや、風がとんでもなく強かったのを覚えてるなぁ。当時住んでいた東京吉祥寺からレンタカーのワゴン車に機材やら衣装やらを積み込んで2時間以上かかっただろうか…ほぼほぼ千葉県と言えるような東京の東の端あたりに位置する指定の場所に到着した。それも確か朝8:00とか、とんでもなく早い時間だった気がする。
そこはどうやらライヴハウス。その頃本当にあちこちでライヴをやっていたので特に東京近郊のライヴハウスで知らないところなどほぼないと思っていたのだがそこはまったく知らない名前のお店だった(名前はもう忘れたけど)。
内部はさほど広くない。内装がちょっとキャバレーぽいなという印象。とは言え一応ちゃんとアンプやドラム等の機材もちゃんとしていて、PAや照明もちゃんと生きているようだった。どうやらここで演奏シーンを撮影するらしい。
ふと見ると、お付きの人を一人従えたちょっとかわいいお姉さんがいる。小柄で華奢。髪は当時フラッパーと呼ばれていた短めのパーマネント・スタイル。紹介されて挨拶するとなんとオスカーに所属しているモデルさんだと言う…名前は聞いたけど忘れちゃったなぁ…。そしてもう一人はメイクさんなんだそうな。お〜、道理で芸能人の匂いがすると思った…実際いいにおいだったし(こんなことは覚えてたりしてw)。
とりあえず楽器を出してセッティングして、音を出してみて行けそうだとなったら自分たちも衣装に着替えてみたりする。で、さっきのモデルの方がヴォーカルだという設定で音に合わせて当て振りする。音は…Earthshakerの「More」。そうこの時撮影したビデオが使われるのがこの曲だった。いやぁ、好きなバンドだし一応弾けたから、とってもラクにやれてよかったなぁ。
実はこの時もう1曲分あって、それはTwinzerの「I will Wait for You」だったんだけど、これはまぁライヴシーンがいらないということだったらしく、この場所では確か撮らなかった気がする。
で、3回くらい曲を回して、都度違うアングルから撮られてOKとなった。
そしてその後、
「プロモーションビデオを撮ってあげるからなにかやって。」
となって、確かその当時配っていたデモテープに入っていた「1914」という曲を演奏したような気がする。そう言えばこれもそのデモテープに合わせて当て振りしたんだけど、そのテープに収録されている音が高くなっていて(多分ダヴィングした時にデッキの回転数がおかしくなってたんだろうなと)、生音とピッチが合ってなくて思わず笑ったっけなぁ…。
で、一件目の撮影終了。この時点ではまぁ予想の通り。
で、それで終わりかと言えばそうではなくて、その後移動して別の場所で撮影すると言うのでスタッフさんたちの車についていくと、今度は近場の工場らしき場所に入って行った。
ちょっと古めかしい鉄筋の門と塀。入っていくと急に開ける上空の視界。そして同じように古い灰色の建物。その奥に積み上がっているジャンクの山。お〜、怪しさ満点だぞw
車から降りるとここもすごい風。当時メタルな私たちは背中の真ん中くらいまであったロン毛がほぼ真横になびくくらいの強風だ。しかも2月。だから当然に寒い。
先にどんどん進んでいく監督(この記事の最初に出てきた人ね)とスタッフのみなさんがあちこちを指さしながら話している。そして立ち止まって手招きをした。
「ここに立って、こちらを向いて、で…ちょっとカッコつけた感じで。」
そこはさっき遠くに見えたジャンクの山の中腹。ウエスタンブーツを履いてるからまぁ大丈夫だけど、けっこう危ない感じの尖った金属が大量に積まれている。時々風に煽られて身体を持っていかれそうになって、ここでもしバランスを崩して転んだら流血間違いなしだよなぁなんて思ったり。
そしてまずはバンドのメンバー全員で。その後個別に。なぜかここではさっきのモデルさんの撮影はなかった。ということはうちのバンドのプロモのためにわざわざ寄ってくれたのかも?…なんてことを思いつつとにかく寒さに耐えた。
さてこれで終わりかと思えばまだ撮影は続く。次は荒川土手に移動した。強かった風がさらにきつい。遮蔽物がないから直接当たって痛いくらいだ。ここでは私服で撮影だと言われまずは着替えた。ふと見るとモデルの彼女もいてメイクなどをなおしてもらっていて、さらに短髪に革ジャンで、片耳に短いチェーンのイヤリングをぶら下げたいかにも今っぽい男の子も合流していた。
「ははぁ…あいつがこの場面の主役なのかな?」
なんて思いながら待ち時間を過ごしていると、その彼が土手の上や高速道路の高架下を走ったり、振り向いたり、なんか深刻げな顔で遠くを見つめたりしていて面白い。
さらに続いてさっきのモデルの彼女も同じようなシーンを撮ってる。
それを車の中から眺めつつ、「寒いのに大変だねぇ」…なんて他人事みたいに言ってるといよいよ自分たちにも声がかかった。
「え〜っと…じゃあ〇〇ちゃん(モデルさんの名前ね…ホントに1mmも覚えてないや;;;)はここを歩いて。
バンドのみなさんはその後ろを歩いてね。」
言われるがまま強風の中をやや背中を丸めつつ歩く。で、カットがかかりカメラの方が別のアングルに移動して、また同じ場所を同じように歩く…なんてことを2〜3回。すると監督が言う。
「じゃあ次は…あ、シミズ君、前を歩いている彼女をナンパしてくれる?」
「な…なんぱすか???…やったことないけど???」
「またまたぁ〜。」
ニヤニヤ笑う監督&スタッフのみなさん、そしてメンバー。いや、マジでないって…どうしようかな。とか考えている時間も与えられないまま間髪入れず、
「じゃあ行くよ〜よ〜いっ!」
マジかマジか!…どうしよう。
「すた〜とっ!」
もうヤケだ。頭真っ白のまま、少し歩いてから歩を速め、思い切ってモデルの彼女の肩にちょっと馴れ馴れしく手をかけて話しかけてみた。
「カット〜。なんだやっぱ慣れてるじゃんw」
さらにニヤニヤ笑う監督。おいおい、きっと本当のナンパでいきなり後ろから肩に手をかけたりしたら悲鳴上げられたりぶっ飛ばされたりするぞw 最悪警察呼ばれるぞw
「いやいや良かったって。慣れてると違うね〜。」
だからやったことねぇって。
ちなみにうちのバンドのキーボードはその時点で既に結婚もしていたうちの奥さん(YouTube「うさぎのうみちゃんねる」のおばぁ)。つまりその日もずっと一緒にいる…というか出演者だったりする。その前で「慣れてる」とか言うな〜w
しかしなんだってオレなん?…という思いでちょっとモヤモヤする。だってうちのバンドのセンターはベースを弾きながら歌ってる大介さんですから。それに彼の方が背も高いしルックスだっていい。だからオレじゃないだろと。いやまぁ、メンバーの中で自分だけ旧知だったから話しかけやすかっただけなんだろうけどさ…なんかいつもそうなんだよなぁ…バイト先で大介と一緒にいてもいつもこっちに厄介ごとが来たりする。これってなんなん?(この当時はまだこの「なんなん?」なんていうフレーズはなかったけどさw)
で、その後もなんやかんやいろいろな場面を撮って、いい加減陽も落ちてくる(確かバンド・メンバーが振り返ってさっていくとか、大介がその男の子と楽しげに話してたりとか)。
すると次は高速道路の高架下で演奏シーンを撮ると言う。なんでもその女の子も参加しているバンドのリハーサル・シーンなんだそうな…ん? じゃあさっきのナンパするシーンはなんだったんだ? ひょっとして初めて逢った女の子ってわけでもない設定なのか? とにかくまったく説明がないので頭の中は「?」だらけ。とは言え演奏シーンだと言われればまぁ楽器を用意して、それぞれまぁこの辺かな?…的な立ち位置に立つわけなんだけれども、まぁその子はさっきライヴハウスで撮ったシーンのようにヴォーカルなんだろうなと察してセンターを空けて用意していると突然監督から声がかかる。
「シミズ君のギター、彼に貸してあげてもらっていいすか?」
あ、彼女がメイン・ヴォーカルで彼がギタリストなのね。なるほど…はいはい…ということでギターを貸して(当時使ってたギターがYAMAHAのSFX-1というVOW WOWの山本恭司さんモデルで、これがまたマジで重かったから彼も大変だったろうとは思いますが)、で、今度は自分が手ぶらになっちゃったのでここのシーンではお役御免ということでハケようとすると…、
「あ、シミズ君はいてもらわないとマズいなぁ。」
とか言い出す。でも手ぶらでなにするの?…と問えば、
「あ、じゃあキーボードさんのところに行ってじゃれてて。」
なんじゃそりゃw 「キーボードさん」ってそれうちのカミさんだからなぁ。多くの人が見るかもしれないカラオケ・ビデオの中で夫婦でいちゃつけってかw…なんだなぁ。
などと思いつつもとりあえず言われた通りにやると今度は、
「じゃあ○○ちゃん! あの二人を見てちょっと悔しそうな顔して!」
なんていう指示が飛んできたりする。
彼女が? いちゃついてるこのバカ夫婦を見て悔しそうにする?…意味分からんw
なんて感じでそのシーンを終えると今度はそのすぐ脇に放置されていたいくつかのU字溝かなにかに座って、みんなで話しているところを撮りたいと言う。なんだろ?…まぁバンドの日常的な感じなのかな?…等と思いつつ、それぞれ適当なところに腰掛けると、
「あ〜、シミズ君はあっちへ座って。で、奥さんはその隣。○○ちゃんはここね。で、シミズ君と奥さんはまたいちゃついてて。で、○○ちゃんはまたちょっと複雑そうな顔でそれを見てて。」
なんて指示されたりする。
ひょっとしてこれって、彼女が実はシミズを好きで、しかしシミズはそれに気づかず、バンドの中の別の女の子と仲良しで、彼女はそれを見て複雑な気持ちになっている…なんていう設定なのか? しかもどうやら彼はそんな彼女を好きで、彼も複雑な気持ちになっている…みたいな? いやいや、だったらなおのことシミズがやる役じゃないでしょ。絶対大介がやるべき役でしょ。そういう役はちゃんとイケメンがやらないと見ている人にそれとは伝わらないでしょ…とかなんとか、まぁその時は言われたことをちゃんとやるだけで一生懸命だったし、とにかく風は強いしめちゃくちゃ寒いから早く終わりたかったりもして、そんな異議も唱えずにとっととやっちゃったけどさ。てか現場ではそこまでも思えず、実のところ帰りの車の中で、
「あれってなんだったんだろうなぁ。」
なんて感じでみんなと考えて、ひょっとしたらこういうことだったんじゃね?…的に導き出したなんて感じだったんだけどね。
まぁとにかく本当に全然説明もないし…今思えば聞けばよかったんだろうけど…もちろん台本なんてないから…あれ? ひょっとして見せてもらえてなかっただけであったのかも?…そう言えば監督とスタッフの人はなにやら紙資料を見ながら話してたような…なんて状態で、終始頭の中に「?」が浮かんだまま一日があっという間に過ぎていった…そう言えば打ち上げらしきものもなくそのまま現地で解散って感じだったなぁ(考えてみたらちゃんと弁当も出なかったような…お昼どうしてたんだっけなぁ…)。
「いやぁ〜お陰でサクサク進められて助かったよ〜。」
なんて言ってたくせに。
さて数週間後、その監督がまたバイト先に現れ、まただいぶニヤニヤしながら一本のVHSビデオを手渡してきた。見た瞬間、なにも言われなくてもそのビデオがなんのビデオなのかは分かる。それからはもう早く家に帰りたいとばかり考えていた。
家に帰る。その頃の部屋には自分たち夫婦だけではなくベースの大介も同居していた。当時はまだスマホはおろか携帯すら持っていない時代だったから、ドラムの稔には連絡できずにいた(多分当時は自宅に電話して留守電を残すくらいしかできなかったんじゃないかなぁ…)。なので3人で見たんだったと思うんだよねぇ。で、あとはもう爆笑の連続。だって覚悟はしてたけどさ、まぁ素人の大根演技モロ出しで表情もなにもあったもんじゃないし恥ずかしいったらありゃしない。カミさんといちゃついてるところなんてただただわざとらしいだけだし。それにしても映像にすると、あの強風&激寒の堤防が、こんなにポカポカした春っぽい雰囲気になるんだなぁと、そんなところにばかり感心してたりしたっけ。
で、その後、次の練習日に改めて稔も、その奥様(…この頃はまだ結婚前か)や大介の彼女や、まぁみんなで見て改めて大爆笑したという…いや、自分的にはただただ恥ずかしかっただけなんだけれども。
そしてさらに後日、今度はカラオケ屋さんで本当に流れるのかを確かめるために、NIKKODOのカラオケが入っているところを探してみんなで行ってみた。そしてEarthshakerの「MORE」を入れる。イントロが流れる。本当にあのビデオが流れた〜w いやいや、「MORE」はね、それでもほぼほぼ演奏シーンだからいいんだ。問題はこっちでしょ。ということで続いてTwinzerの「I will Wait for You」。キター!…爆笑の大根演技。マジでこれ全国で見れちゃってるんだ〜。こんなのヤバいだろ〜!…とかなんとかまた盛り上がりつつめちゃくちゃ飲みまくってみましたとさ。
ちなみにそう言えばこのカラオケ・ビデオの反響ってあんまりなかったような?…一応ライヴや会報とかでも告知したりもした気がするけど、見て笑ったという話は近しい何人かからしかなかった(Spinartでコラム連載してくれている野林氏もその一人だけど)。意外にみんな見てなかったかもなぁ…てか、NIKKODOのカラオケが入っている店がそんなに多くなかったのかも?…いや、当時全国2位だって言ってたもんなぁ…ということは「MORE」と「I will Wait for You」がそれほど歌われてなかったのか?…それも考えにくいよなぁ…あ…あまりに演技がかわいそうでその話に触れられなかっただけかも…それは充分ありえるなw
まぁ今となってはその監督の連絡先も分からず(なにせ当時はそういう記録がすべてアナログだったからなぁ…)、せっかく一緒に出演したあのモデルの子や男の子も、あれが誰だったのかまったく分からず、手元には恥ずかしい動画のデータだけがあるという…え? あるよ? 自分のVHSは大昔に物置にしまっちゃって多分もうカビカビだろうけど、ドラムの稔さんがデジタル・データ化してくれたのをもらって持ってます。え?…見せる?…わけねぇだろw 「やるは一時の恥! 見られるは一生の恥!」(by けっこう仮面(C)永井豪先生) ということですよw
※写真は近所の路上に落ちていた赤い実。
これがなにかは分からないけど、あまりに綺麗な赤なのでシャッターを切った気がする。
※使用カメラ&レンズ:Canon EOS 6D + EF24-70mm F2.8L II USM
「Spinart(スピナート)」では、活動・運営・ブランディング・プロモーション等相談も受け付けています。
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