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Logo Mark歯を磨く様に演じる大道具「獅子頭」作り

鵜飼雅子

舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
日本演劇教育のさきがけ的な存在である劇団らくりん座の正式団員として全国各地で公演を経験。
朗読や表現、コミュニケーショ...

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シニア劇団で今年は泉鏡花の「天守物語」という大作を4月に公演する事にしている。実はこれは私も以前から出演してみたかった作品だ。かつては玉三郎さんや宮沢りえさんもやった事のあるファンタジー作品で、結構長い作品をシニア劇団用にカットしてはみたものの、おそらく1時間半位はあるだろうし、メインの2人は台詞もかなりある。
私もそのメインの役どころが来たら、嬉しい反面、その台詞の多さに少しぞっとするだろう。
さて、出演側の役者も大変だが、作り物をする側もなかなか大変である。灯籠に、仮面に釣竿にその細工に、極めつけは獅子頭だ。
現代の作品ならそこらへんにある小物で代用するところだが、なかなかそうもいかない。獅子頭をどうしようかと昨年夏過ぎから悩んではいたが、重い腰をやっとあげ、昨年末作りだす事にした。
年々仕事を含めいろいろと忙しくなってくると、手っ取り早く調達出来る方法をどうしても探しがちである。
『年のせいだよ』
とも知人に言われたが、どうしてもそこは認めたくない。
さて、問題の獅子頭だが、作るにしても、何の材料でどう作るかからスタートである。重いものや経費がかかりすぎるものは使えない。インターネットを探すと比較的小さなサイズの獅子頭を作っている方が結構いらして、厚めの発泡スチロールを何重にも重ねて作っていたり、段ボールで既にパーツになった獅子頭(今回は大きなサイズを作らねばいけないのでこのままでは使えない)のセットを組み立てたり、木を組み合わせたりと様々である。その中で、段ボール箱を凹凸に組み合わせベースにして、丸みのあるところは新聞紙を丸めてくっつけて立派な獅子頭を作っている方がいて、この方法を利用する事にした。
大道具などを段ボールで作るというのは数回しかやらない芝居の場合、よくやる方法だ。なんて言ったって段ボールは無料で調達出来るところと軽いところがいい。でも段ボールで獅子頭を作るにあたってひっかかっていたのが、丸いフォルム。これがそのままでは出しづらく、なかなか取りかかれずにいたのだが、新聞紙をくっつければいいとは…。
その後は張子の要領で、新聞紙を丸みを帯びた獅子頭を頑丈にすべく貼っていけばよい。失敗しても段ボールと新聞紙なので材料は無限に近い程ある。
そう心が決まると早いもので、何ヶ月も取っ掛かれなかったのが嘘の様に進んでいく。
『張子なんて作ったの25年ぶりくらいだろうか…』
最後に作ったというか修繕した張子作業は、日光山輪王寺で4月2日に行われる山盛りのご飯を強要するの「強飯式」をモチーフにした芝居で使う直径1m位の赤いお椀。中心部が竹で出来ていて長年使っていたので内部が折れ丸い円が変形していたのを、先輩役者方が直し、新聞紙を剥がした所を貼り直していた。
記憶では日中ではなく、もういい加減日が陰っている時分で、私だけでなく作業をしているメンバーも疲れていて、新聞を貼りながら、誰が言い出したかわからないが、
『どうせこの上から布を貼って赤く塗るから、見えなくなるから大丈夫、大丈夫』
と言って、後々見つけられてはいけない小言や文言を新聞を貼り付けた上に書いた様な記憶がある。ちょっとした気晴らしだった。
そういえばあの時何を赤いお椀の中に閉じ込めたのだろう。
おそらく、その劇団もいろいろ代替りはしたが、その芝居をするたびに皆の囁きを封じ込めた大きな赤いお椀が登場していることと思う。

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舞台役者、朗読家、アトリエほんまる 副支配人。
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