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Logo Markなにか創るとうれしくてkemono galleryさんの作品によって紐付く観る人側の引き出し

紫水勇太郎・清水 豊

株式会社4DT 代表取締役
株式会社ワークス 代表取締役
Spinart運営者
YouTube「うさぎのうみちゃんねる」のおじぃ
YouT...

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「うわぁ…これは「もののけ姫」の世界だ…。」
 kemono galleryさんの作品を初めて観させていただいた時、思わずそう声が出ました。いや、これがオーバーな話ではなく、本当に声が出たんですよね。
 ということでシミズの中に強力なインパクトを残しているアーティストさんを紹介するシリーズ第4弾です。
 kemono galleryさんの紹介情報はこちらのページをご覧ください。
 アーティスト紹介・kemono gallery

 その時送っていただいたkemono galleryさんの数点の絵。どれも大型の動物がドンと中央に描かれていて力強く、しかしどれも比較的暗い色を背景に、だから動物本体が浮き上がって見えます。いやちょっとほの明るく光っているようでもあります。かつ、本来その動物の毛並みには存在しないであろうさまざまな色が使われていたり、古代文字のような紋様が描かれていたりする…そうか、こんなところから「もののけ姫」を連想させる縄文的なイメージを感じたのかもしれないな…等と一人勝手に納得してみたりしました。そう言えば描かれている動物も、鹿やカモシカ、獅子や象など、多くの動物たちの中でも人間の原初的なスピリチュアルなものに結びつきそうな動物たちだなぁとも思ってみたり。
 そして改めて「もののけ姫」を観た時の感動を思い出します。深い山に存在するシシガミ、モロの君、乙事主、猩々、木霊たち。そして主人公アシタカの故郷…おそらくは東北の山。ヤックルの存在。そしてそれぞれの立場の人間たち。それらの関わり合いによって動くあの物語の奥底にあると思われる、単なる自然崇拝的なものではない複雑な考えや関係性。そこから見い出せる未来への考察。本当に深いなぁと思いつつ、自分もこの貧弱な脳みそでいろいろ考えてみたものでした。
 kemono galleryさんの作品にはそれと似た匂いを強く感じたんです。自然への畏敬。動物たちへの尊敬と愛。同時に縄文的な事物への憧れ。それらがものすごいインパクトを持って迫ってくるような。だからおそらく自分はkemono galleryさんの絵を忘れることはないだろうなと思えます。いや、普段はもちろん忘れている時もあるだろうけれども、ふとなにかのきっかけがあった時、例えば動物園のような場所で大きな鹿や象を見た時や、「kemono」という単語を欧文綴りで見た時、もっと想像すれば逆に「もののけ姫」を見た時に、いちいち思い出すのではないかと思えます。でもこれはなぜだろう。

 確かにkemono galleryさんの技法には、その構図、色使い、筆致、等々さまざまな面で強烈なオリジナリティを感じます。そのインパクトはとても強い。しかしそれだけでこんなに印象に残るものなのだろうかと考えてみます。そしてふと、描かれている動物たちの「目」が気になっている自分に気がついたんですね。
 いや、「目」という部分だけに注目すれば、失礼ながらさほど技巧を凝らした描き方ではないとは思いますよ。原則として墨色のみと言える色使いで塗られたその「目」。絵によっては目が判然としない描き方すらあります。しかし気になる。ある絵では寂しげになにかを語るようで、ある絵ではなにかを訴えているようで、ある絵では今まさに向かって来ようしているかのようでもあり、達観しているようでもある。そしてそれらは一様に、その絵を見ているこちらを見ているようにも感じるんです。もちろんこれは自分の主観でしかありません。だからきっと人によって違う印象を受けるかもしれない…というかきっとそうだろうと思います。まぁだからと言ってkemono galleryさんの作品を観る際に、特に「目」に注目して観る必要はないのだけれど、しかしもし、シミズがそのように感じた作品とはどのようなものなのだろうと興味を持っていただけたのなら、是非ご覧になってみていただければと思います。

 kemono galleryさんは岩手県一関市で作品を作りながらご自身のギャラリーも運営する画家さん。岩手と知って、この作品のバックボーンのようなものも改めて感じるところだけれど、自分も那須高原といういわゆる内陸の山のすぐそば…というかほぼ山の中で暮らしている身としては、山に暮らす動物たちの過酷さやたくましさ、人間の暮らしと隣接していることによる難しさのようなものも感じるので、より一層この作品に感じるものが強かったのかもしれないな等とも思います。ま…東京に住んでる頃から「もののけ姫」は考えさせられる作品として何度も観てきたしね。

 ということでkemono galleryさんの作品から、自分の中にあるそれまでの経験が紐づいて引き出されて、また新たな体験として考えさせられ更新され、その上でもう一度再記憶されていくというような過程を経たというお話でした。
 つまりアートというものは、シンプルにその作品から受けるなんらかのインパクトによって印象づけられるだけではなく、その作品に触発されてそれまで自分の中にあったなんらかの体験の引き出しが開き、呼び起こされて結びつき、さらに強い記憶として再定着するものなのだということを改めて感じたということなんですね。
 さてここで考えてみましょう。
 あなたが今観ている、もしくは聞いている、触っているその作品は、あなたの中のどんな琴線に触れてあなたにインパクトを残しているのでしょう。
 そしてまたあなたがもし作り手側の方だったとしたら、あなたの作品によって結びついて顕在化する受け手側の体験等にはどんなものが考えられるでしょう…なんてね、そんなことを考えて作品を作ってみるのも、自分の作風に新たな窓を開くという意味で面白いかもしれませんね。もちろんkemono galleryさんがそういうことを考えて作品を作っているということではなく、おそらくはご自身の思うがままに描いたら、勝手にシミズのそういった体験と結びついたということと思いますが、これも一つの表現方法を考える鍵になるかもなぁなんて思ったというお話でした。

 そう言えば自分も一度あったなぁ…いや、めちゃくちゃ暗い、ど〜んよりした曲がありまして…「よく見る夢解けない謎」っていう曲なんですが、これを歌っていたら、会場のお客さんが泣いているのに気がついたんですね。いや、泣くような曲じゃないんですよ。単に激暗いだけですから。で、気になったので終わってからその方に聞いてみたんですね。そしたらその方がちょうど彼と別れたばかりだったそうで、その曲の中に出てくる、
「どこで 壊れたかも 分からないままに もどれない そんなの辛すぎる」
とか、
「捨てられた子犬より 惨めに映る 捨てられたことが 分かるから」
という歌詞にピンポイントで反応してしまったんだとおっしゃっていました。
 これもね、作り手の私はまったく意図していない反応なんですが、受け手の方の中の体験に結びついて強いレスポンスになった例ですよね。
 いやホント、なにかを創ったり表現するのって楽しいですね。
 あ、もしこの「よく見る夢解けない謎」を聞きたいという酔狂な方がいらっしゃいましたら、以下に掲載しておきますのでどうぞ。

[MV] 紫水勇太郎 / よく見る夢 解けない謎 / from album "99.99%" [Full]

2016年リリースのアルバム「99.9%」に収められた楽曲。
これはそれを適当にちゃっちゃとMV化してみた動画。

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