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Logo Markなにか創るとうれしくてAI生成がアート表現ジャンルに与える影響について考えてみる

紫水勇太郎・清水 豊

株式会社4DT 代表取締役
株式会社ワークス 代表取締役
Spinart運営者
YouTube「うさぎのうみちゃんねる」のおじぃ
YouT...

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 AI生成がどんどん進化している。まぁ面白い上に便利だし需要もあるだろうからそりゃ止まらないだろうな。しかし新しいものが盛り上がるとそれによって煽りを受ける既存のものがあるのはいつものことで(そういえばDTPが普及したら写植屋とか紙焼き屋とか一気に無くなったっけなぁ…遠い目)、AI生成の場合はさらに広く、絵描きさん、写真家さん、動画製作者さん、さらには音楽関係や声優さん…等々数多くの方々に大きな影響を与えていると感じる。

 まぁでもね、いわゆるアート表現ジャンルでの影響は実のところ少ないんじゃないかなとも思ったりして。なぜならおそらくターゲットになる人が違うから。
 おそらくアートを欲してる人ってその作品の素晴らしさを入り口にしつつも、その作品を生み出した作り手の内面等々にも強い興味を持っているのでは?…と思うんですよね。つまり、パッと見インパクトのある作品というだけではなく、そのさらに奥にあるものも知りたくなってしまうというような、知的な好奇心でズブズブになっていく感じ。さすがにこういったものまでAIが表現することは今のところできないでしょうから(いずれできるようになる可能性はあるけどね…まぁ必要性の優先順位は低そうだから、やれたとしてもやらないかもとも思うけど)、そう言った意味で、アート表現ジャンルの価値がAI生成によって侵食される可能性は低いんじゃないかと思えるわけです。
 それに、特に絵画系では原画のナマな感じには及びようがない。AIはどうしてもデジタル画像としての出力になるから、例えば油絵の厚塗りのようなあの立体感はさすがに再現できないだろうなぁと。この点、デジタルで作品を描いている人の場合は差別化は難しくなるし、写真作家さんもデジタルを主戦場にした場合は難しいかもなぁ…そう考えると、絵画はアナログ回帰が考えられるかもしれないし、写真アートの世界がもう一度フィルムから紙焼きの世界に先祖返りする可能性もあるかもしれないなぁ…焼き方や焼き付ける対象を変えてトータルで作品にするとかね。だってその方が「人間にしかできない」という要素がより強くなるから。

 それよりもやはりアート表現ジャンルの作り手にとって当面の問題は、作風を学習されてパクられることでしょうね。自分の作品を世に出した瞬間それを学習されてデータベースに組み入れられAIの表現アイテムの一つにされてしまう。そしてそれはあっという間に世界中の人が利用できるようなものになっていって、なんだか、せっかく生み出した自分のアイディアが自分のものではなくなっていくような感じになるのかなぁ。そもそもパクられるなんてそりゃあ気分的にも悪いに決まってる。
 しかもパクられたかどうかを判定することはきっとめちゃくちゃ難しい。だって、世界中数多の創作物を取り込んで、リクエストに沿ってそれらをミックスした状態でアウトプットするわけだから、それこそピカソやゴッホに代表されるように、誰が見てもその人のそれだと分かるような超個性的なスタイルでもない限り、きっとパッと見では分からないことが多いだろうなと思えたりします。まぁいつ盗られたか分からないくらい巧妙なスリと同じようなものですなぁ。
 さらに、AIの方が学習力が高いことで、発想の面でもAIの方が優れていたりするなんてことになるとさすがにちょっと焦るかもななんてことも思ったり。
 この面では音楽も同じような影響…まぁ被害と言ってもいいかもしれないけど…を受けそうだなぁ。これについては正直現状、どのようにしたら止められるのか、どのようにしたら対抗できるのか、まったく分かりません…なにせ、やられたという自覚を持つこともできないかもしれないからなぁ…。

 これとは別に、明らかな影響を受けるのは商業系のイラストレーターやカメラマンのように、職業としてこうしたことをやっている方々ってことになるかもなぁ。
 カット・イラストなどはもう人間に発注する必要がなくなるかもしれない。だってイメージを伝えればサクッと出力してくれる上に、気に入らなければ何度でもやり直しが効く。つまり発注から納品までがとんでもなく短縮されている上に運用の柔軟性も高いという…これは強敵ですなぁ。そのイラストレーターさんが強烈に個性的な作風で、例えば表紙のような重要な部分を飾りたいというような、いわゆる業界頂点の方ではさほど影響はないと思われるものの、本当にページの隙間を埋めたり、ちょっと雰囲気を醸し出したりする程度のイラストの場合はいちいち依頼する必要がなくなってしまう。しかも使うのは紙媒体やWebだとすれば基本デジタルでいいから筆致のディテールとかも関係ないしなぁ。
 これは写真も同じだろう。絶対にその人の写真でなければならないとか、被写体がそれでなければならないというような場合はもちろん都度しっかりと撮影するという手法が生き続けるだろうとは思うけど、イラストと同様に、比較的なんでもいいようなイメージ写真などの需要はまずなくなるだろう…いや、もうフリーの画像サイト等がだいぶ充実しているから既にそんな需要は無くなっているのかもしれないけれど、そうしたフリーの画像サイトでさえ、目的の写真を探し出す手間は相変わらずけっこう大変なので(いや…昔レンタル写真がアナログだった頃に比べたらとんでもなく楽ですけどねぇ…)、AIが普及するとそこの手間が一気になくなって使う側としてはとてつもなく楽になるというメリットがあるな。つまり、この辺りの需要はごっそり奪われていくんだろうなと思える。
 声優さんも同じかもしれない。初音ミクの登場あたりから急速に応用できる範囲を広げてきた人工音声の世界だけど、今や、本当の人間が読んでいるのと遜色ないと思えるくらいのレベルにきてるもんなぁ。強いて言えば漢字の誤読がちょっと気になるくらいかな…。しかもだいぶ安価で利用できるようになったしなぁ…。そうすると、例えば企業の会社パンフ的動画などでは、以前のように声優さんにお願いする必要がなくなってくる…というかもうそうなってるよなぁ。
 そうすると現状AIのメリットをもっとも享受するのは自分たちのようなディレクターやデザイナー、レイアウター、エディターみたいなことを仕事にする人たちだなぁ。だって発注とか、そのための打ち合わせとか、その後の待ち時間とか、意に沿わない場合のなおしとか、全部いらなくなるんだもの。しかもその上安価(場合によっては無料)となれば、これはきっと一気に普及するのは間違いがない…というか実はもうけっこう使い始めてたりもする。

 さて、ではそんな時代でどのように生き残るか…。これは正直難しいとしか思えない。かつて紙物制作や印刷の世界にコンピュータが導入されてDTPというものが一気に普及した時代、それまで必要不可欠とされてきた写植屋さんや紙焼き屋さん等が一気に無くなった。それ以前の時代…実はうちの父親が印刷屋に勤めていたんだけれど、その時代の印刷屋と言えば活字を一文字一文字拾って枠の中に収めて、その中でレイアウトも作っていってそれを刷るなんていう工程があって、だからそうした技術を持っている人の需要が高かったわけだけれど、それも写植の技術が進むと一気に侵食されて消えた。つまり技術革新がそれまでにあった技術を飲み込んで淘汰してしまうということはこれまでもずっと繰り返されてきたということなのだ…まぁ、実際にそれに従事している人にとっては迷惑千万な話だろうけど…え? これ、自分も他人事ではないと思ってますよ。だって、Webサイトの制作なんてもう、簡単な物ならテンプレートにポンポンポンと素材を当て込むだけで誰でもできちゃうもの。まだ多少知識が必要な部分は残っているから、特に企業サイトのようにちょっとカスタマイズした見た目や運用方法との連携等の調整も必要な場合は自分たちのような職種に需要があるかもとは思うものの、とは言えスマートフォンでの閲覧が中心となることでそのバリエーションも不要になってきたし、いずれは…というかけっこう近いうちに完全に淘汰されるんだろうなと思ってる。

 ではどうするか。まぁもっともシンプルに考えれば、なにか別の価値を生み出して付加する以外はないかもなぁと思います。
 例えば私たちの業界においては制作そのものの技術よりもプロデュース力だったりマーケティング力だったりの方が圧倒的に重要で、そういった戦略戦術の立案に基づいた制作ができることが強みになると思ってたりします。だから、これまで単なる制作者として関わっていたものが、もっと深く、もっと上流工程の、場合によっては商品ラインナップやその営業手法、PR戦略戦術の立案、さらにはその運用、スタッフ教育、なんていう分野にまで踏み込んでいかないと、本当に意味のある提案ができないなんていうことにもなりそうです。
 もっともこれも顧客のレベルによって需要は異なるので、とりあえず小綺麗なサイトがあればいいなんていうレベルのクライアントは、まぁ今後顧客対象ではなくなるということなんだと思います。
 これをイラストレーターやカメラマンで考えるなら、今までは希望に合わせて描いたり撮影することが仕事だったものに対して、それを超えたなんらかの価値を付加する…例えば、その大もとのコンテンツ・コンセプトにまで関わって、それをより効果的に表現できるイラストや写真とはどのようなものか、等と言った提案をするとか…かな? いやぁ…なかなかそこまでって難しいかもしれないなぁ…。だとすればやはり、いわゆる装飾的な分野は捨てて、例えばイベント等、その場に居合わせないと取れない写真の撮影に特化したり…かなぁ。イラストの方は難しいな…タッチのオリジナリティーが重要になるのはこれまで以上なんだろうけど…う〜ん…ある程度ジャンル特化するとか? 例えば動物がすごいとか、ダーク系に強いとか…う〜ん…それでもまだなにかもう一つ足りないような…。ちょっと考えていく必要がありそうですねぇ…。

 とまぁこのように今押し寄せている新しい波のお話でした。
 新しい波が来れば、それにどう抗ってもその影響は受けるもの。そんな中で自分はどう対応して、対応しながらも自分の軸をどう置くかなんてことを、考えてみる必要があるということですねぇ…。こうしたことは他の色々な分野でも起こることですけどねぇ;;;

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