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Logo Mark連載小説・デッサン いろはにほへどあとがき

平松将史

1957年3月8日生まれ。
岡山を中心に長年愛されてきたフリーマガジン「月刊CAMNET」の編集長。
日本におけるインターネットの黎明期からネットラジオ「radio ...

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 妹尾村(現岡山市)は今でこそ備南平野の中央に位置しているが、その昔は対岸の八浜と瀬戸の海をにらむように海岸線に臨んでいた。現在に至ってはその姿は想像し難いかもしれない。児島湾の締め切り堤防によって陸地がひろがり広大な穀倉地帯を造りだしているのである。
 また、関ケ原の役の前夜、領主戸川氏は備前岡山藩宇喜田氏のもとを離れ一族もろともその身を徳川の旗本とした。やがて関ケ原の戦が終わり宇喜田氏はその居城をおわれ、かわって池田氏が備前岡山藩主となった。戸川氏は動かない。以来、妹尾村は旗本領地戸川藩領妹尾として徳川三百余年を存続することになった。
 他にこの妹尾村の近くでは倉敷が天領とされていたことは有名である。
 平松(文中中村)の姓がこの地域に登場してくるのはいつの頃からか。古くは備中松山(現高梁市)にその姓は見いだされ、あたかもこの地が発祥の地であるかのようにこれより先はわからない。平家の落武者がこの地に落ちたとの聞があるが、話しの出ようしては面白いが信じる者はまずはいまい。とにかく、高梁以前はわかっていない。しかし、ひとたび高梁に登場した平松姓は高梁川をくだり下流の倉敷に落ちつく。更に倉敷から岡山へと飛び火するように点在するようになるのである。倉敷より岡山方面へでた者の中に、後に戸川藩士となる平松の家があった。
 平松の家は妹尾村の中心に位置する盛隆寺の仁王門(旧仁王町)にあったようだが、(史邦)の祖父五朗(※清一)の代に一筋西(八千寺町)の通りに移り住む。
 五朗は現自由民主党の前身の一派である政友会議員西村丹治郎の秘書を務める傍ら、岡山県全県の選挙参謀として文字通り東奔西走の生活をおくる。当時の政治家は私財を持ちだしてその姿としていたもので、家中の生計は苦しいものであった。貧にあえぐ者達へ生活保護をとりつけるなど、貧しい者達の拠りどころとなる。享年六十八。葬儀を耳にし駆けつけてくるものは葬儀後も後を断たなかった。喪主である一男はその数の多さばかりか、後日持たらされた香典を開いてみて驚いた。そこには、その日暮らしの切り詰められた生活をおくる者達からのささやかではあるが精一杯の気持ちが込められてあったのである。
 と、この物語の行間に書きくえれば書きくわえれたと思う箇所も今となっては随所に見うけられるし、手直しに至っては言うまでもないようにこの物語は未だいうなればデッサンの域をでるものではない。しかも、物語は完結を見ないばかりか序の部分がやっと始まったに過ぎない。
 書き始めたのはいつ頃からだったのかはっきりとはしないが、事業?に失敗してふたたび大学の門をたたいてみる以外には考えられなかった時期というものが分からず、いったい自分にとって何でありどれほどのものであったのかというのが「書く」という事の始まりであったように思う。
 またひとつには、美和書房でのアルバイトをきっかけとして歴史小説あるいは歴史そのものに対する関心度が従来にも増して深まったこと、幕末の史跡が豊富かつ身近に残る土地柄等々がうまい具合に自分の中で接点を持ったことも「書く」ことに対する要因であったろう。
 物語はこの先、伏見寺田屋、海援隊、土佐へ、黒船見ゆ、いろは丸、上海へ、とつづいてゆく予定である。当初の予定では大学を卒業するまでには終わらせるつもりではあったが、この予定は大幅にくるってしまって現在に至っている次第である。
 私的には坂本龍馬に傾倒しながらも自らいだいた龍馬像を過去のものとはせず、今日に生き生きとした姿でよみがえらせてみようと自分なりの独自の方法論で事にとりくむ姿を、いつの頃からか黙して語ろうとしなくなった世代のひとりとして何らかの形で残しておきたかったのである。

 最後に、大学生活の四年間という時期を自由奔放に歩かせて下さった坂田幹男先生、東田雅博先生、原田守治先生、持田明子先生を始めとする諸先生方、知り合うことのできた全ての人々、そして仲間達に感謝する次第であります。

 昭和六十一年一月


連載小説「デッサン いろはにほへど」をまとめて読む
(1)門出の花
(2)馬関へ
(3)陸援隊
(4)桜の木
(5)憂
(6)惨風
(7)思案
(8)思案その二
(9)物情騒然
(10)刺客
あとがき

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平松将史

1957年3月8日生まれ。
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