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Logo Mark連載記事

Logo Mark「ステキ」をベースに考えるインディーズ・マーケの肝eスポーツが創る未来 経済と可能性

野林徳行

ヘヴィメタル、プロレス、モータースポーツをこよなく愛するマーケター。
常に、カスタマー(お客様)の心を揺らし、「ステキ」創りをストーリーをもって実現することで成功に導く活動をしてい...

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野林徳行です。
「Spinart」にてマーケティングコラムの連載をさせていただいています。
アーティストのみなさんと接する機会も多いのですが、どんな人の心を揺らしたいのか、何を感じてほしいのか、人に言いたくなってしまうことはどうしたら起こるのか、そもそもあなたのアートによって人はなぜ幸せになるのか…答えは1つではありません。でも、常に考えていたいですね。そんな皆さんのヒントになれば幸いに思います。
56回目のコラムです。今回は、2022年5月28日に、全日本青少年eスポーツ協会 / Gameicの前川友吾会長と行わせていただいた、日本の将来を担うeスポーツについての講演から抜粋したいと思います。すでに前々回eスポーツについてレポートさせていただきましたが、今回は、この講演で、コンテンツが企業を巻き込んだり、社会を巻き込んだりしていく様をレポートし、みなさまのお役に立てればと思います。


■ まずは、LoL Worlds 2018 開会式の動画から講演がスタートします

2018年韓国仁川で開催された eスポーツの世界大会。東京ドームと同じくらいのキャパシティの会場で開催され、 オフラインでの来場者は5万人、 オンラインでの視聴者数は公式発表で9960万人でした。会場の様子はまさに熱狂。黄色い声ではなくて、怒涛のような期待感でした。
eスポーツも、リーグオブレジェンド・ヴァロラント・エイベックスなど様々なゲームがありますが、世界大会はリーグオブレジェンドなど1コンテンツのみで開催されます。
開会式では、生身の人間と AR のキャラクターがステージで共演しています。オリンピックの開会式さながらに、その年の世界中の最新技術がこの開会式に詰め込まれ、最高峰のエンターテインメントとして世界中が熱く注目しました。


■ eスポーツ市場の規模感を感じる

eスポーツ市場は、おおよそ5億人・5兆円という市場規模ですが、これをゲーム市場にまで拡げるとさらに莫大な市場となっています。世界のゲーム人口は、2021年時点で28億人となっています。そしてテンセントのゲーム事業部のみの売上高ですが、なんと4.4兆円です。また、eスポーツの大会の市場規模1013億円という数字がでています。世界一ユーザー数の多いスポーツタイトルである「フォートナイト」は3.5億人のユーザーを抱えています。eスポーツがオリンピック競技として採用されるのならば、ヴァロラントというタイトルが、採用されるであろうと言われています。
さらに、世界のeスポーツチームを見てみましょう。2019年時点で最も時価総額の高い eスポーツチームはおよそ400億円の価値をつけております。世界の eスポーツ時価総額ランキング上位に食い込む「フナティック」というチームには、昨年、丸紅が、18億円を投資しました。また、昨年、「FaZe Clan」 というeスポーツチームが上場する計画を発表し、上場時の時価総額は10億ドルを超えると予想されています。


■ 国内ゲーム/eスポーツ市場の推移

日本のeスポーツ市場も成長しています。日本のゲーム人口は5273万人、eスポーツ人口は約360万人とされています。昨年、NTTドコモがとても注目度の高い大会を開催しました。賞金総額3億円というのも注目すべきですが、出場者の全員に年収350万円を保証したという点が注目です。16チームが出場し、各チームが7人のプレイヤーを登録していましたので、350×7で約2,500万円、それが16チームですので 約4億円の人件費をdocomoが出したことになります。このドコモの給与保証によって、アルバイトや配信活動等に時間をスポーツの練習に充てることができ、競技に集中する1年間を過ごすことができました。


■ 世界のeスポーツ市場と日本eスポーツ市場の比較

しかしながら、 eスポーツ先進諸外国と比べるとまだまだ発展途上と言わざるを得ないのが、日本のeスポーツ市場の現状です。日本のeスポーツ市場は、現在約66.8億と言われています。経済産業省が2025年までのeスポーツ市場を「3000億円」という目標数字を掲げていますが、これでも今の韓国の市場の1/3です。韓国の人口は2020年で5184万人と日本の人口の半分以下ですが、eスポーツ市場は現在9373億円、そして中国にいたっては2.5兆円あります。日本はゲーム先進国でありながらeスポーツではまだまだです。


■ eスポーツの広告市場

ここでまたLoL Worlds 2019 世界大会の開会式の映像をみてもらいました。この年、大注目を浴びたスポンサーはルイヴィトンです。トロフィーを収納するトランクに協賛しています。素晴らしいエンターテイメントオープニングにルイヴィトンのロゴが華やかに、そして中央にトランクがセットされたショーでした。世界中のeスポーツプレイヤーが注目する瞬間に、こんなクールな広告を出したのです。また、画面の右下に表示されているマスターカードのロゴは、全世界が注目する開会式の映像に、ずっと表示され続けることで莫大な認知を獲得しました。このような新しい形の広告がeスポーツ市場において進化し続けています。


■ eスポーツ市場が広告市場として注目された背景

M Z世代は、広告回避型世代と呼ばれています。例えば2005年生まれの今年17歳になる高校生は、0歳でインターネット普及率が70.8%あり、2歳で YouTube がサービスを開始し、3歳で iPhone が発売され、6歳で LINE がリリースされるという超ITネイティブ世代です。初めて持った携帯はスマートフォンですし、初めての友達とのコミュニケーションツールは LINEです。例えば Twitter、 Instagram などでは自分が「この人の投稿を見たい」と思った人のみをフォローするため、自分のタイムラインには自分の求める情報のみが流れてきます。ニュースを読んでいる際に AI が何秒そのニュースを読んだのかを計測し、「この人は長い時間このニュースを読んでいるからこのニュースは好きなのか」、「この人は短い時間しかこのニュースを読んでいないからこのニュースはあまり好きではないのか」といった具合にその人の好みを判別し、その人の好みに合ったニュースのみをキュレーションしていきます。自分の求める情報しか摂取していないんですね。
このように自分の求める情報のみを摂取して育ってきた世代は、従来のようなラジオ・テレビ・ 新聞のようなある意味で一方向的に情報を発信していくメディアに、少し違和感を感じやすい世代となっています。
自分の好きなドラマを見ていて、いいところで途中に1分半の CM が挟まってしまうと、そのブランドに対して好感を抱かないどころか、多少の苦手意識さえ持ってしまうような世代になっています。
このように従来の広告が少し届きにくくなってきたところで、 どうすれば MZ世代に広告を届けていけるかと考えた時に注目されたのがeスポーツ市場です。


■ 参入は広告だけではない

広告だけがeスポーツへの参入方法ではありません。様々な企業が eスポーツに参入しています。
凸版印刷は、AFTER SIX LEAGUE という企業のeスポーツ交流戦を主催しています。「会社員が定時である6時以降に対戦する」というところからその名がついた、eスポーツの企業対抗戦です。電通や凸版印刷を始めとした7社からなる実行委員会によって運営されており、今年は、League of Legends、APEX LEGENDS、PUBG MOBILEの3タイトルで、約半年間に渡るリーグ戦が繰り広げられることになっています。


■ Gameicのコラボ企業の取り組み

JTBコミュニケーションデザインは、esports port という eスポーツのエントリー管理サービスのプロモーションでご一緒しています。
日立物流は、公認ゲーム大会への協賛からスタートし。カーボンオフセットの企画もスタートしています。福利厚生や採用面での持続発展的な取り組みをしており、社内でeスポーツの勉強会を開催したりeスポーツのコミュニティ大会に日立物流のロゴを露出したりしています。eスポーツにより風通しの良い社風づくりが実現しています。これによる日立物流のロゴの認知度が3か月で5倍に成長しました。
シティコミュニケーションズは、従業員が違う店舗に移動する際に、これまでその店舗で培ってきた人間関係がゼロになり、新しい店舗でもゼロから人間関係を構築しなければいけませんでした。そこでeスポーツ同好会を立ち上げ、 eスポーツによるオンライン交流をすることで、異動後も、それまでの店舗の従業員とも交流ができ、異動先の店舗でも、これまですでにオンラインで交流していた人と働くことになるので、打ち解けるのがとても早くなり、仕事に馴染むのも早くなりました。
凸版印刷もコロナ前まではさいたまスーパーアリーナを貸し切って社内運動会を開催していましたが、開催が難しくなってしまったためオンラインで何かコンテンツを作れないか、ということで、eスポーツ大会を開催、3人1チームでプレイしたのですが、一人は幹部社員、 残り二人は一般社員というチーム構成でした。普段は必要最低限の業務報告しかしないような関係だったのが、若手が幹部に教えるという構造を作った事で、新しいコミュニケーションが生まれました。廊下ですれ違う際の会話が生まれたのが、大きな効果だったそうです。
アメリカ軍もeスポーツを取り入れています。Discord というサービスでグループを作り、15000人が登録、同じものを背負った者同士が交流できるコミュニティーを創設したことで、離職率がぐっと下がりました。
山陰パナソニック、社内でeスポーツチームを立ち上げ、採用の説明会ではスーツではなくこのeスポーツチームのユニフォームを着用し、こういう活動もしているんですよとラフに接することにしたところ、求人がそれまでの1.5倍まで伸びました。


■ 高齢者 × eスポーツ

これは前回のコラムでも取り上げました。当日は、チーム参加条件が「65歳以上」という制限がある秋田県のeスポーツチーム:マタギスナイパーズの方にも登場いただきました。65歳以下の方々からも応募が殺到してしまったため、61歳62歳の方々は、「ジュニア枠」として活動しているそうです。応募者たちはIT系の技術者というわけでもなくパソコンから覚えるような人もいたということで、ここにも強い可能性を感じますね。認知症や MCIの予防に効果があるという大学の研究結果もいろいろ出ています。なによりも孤立しないという効果も大変大きいと思います。


■ コミュニティ市場の盛り上がり

eスポーツで最も熱いのは、コミュニティ市場です。eスポーツ市場はピラミッド構造になっており、テレビや各メディアで注目を浴びるのはほんの一握りのトッププロたち。市場の大部分を構成しているのはアマチュアやコミュニティです。このコミュニティがとにかくeスポーツでは、他のスポーツではありえない盛り上がり方をしています。1人のサッカー少年が自分で大会を開催して、その大会に100人集客して、その大会に関する発信が10万回も見られるというようなことが起こります。このようなコミュニティ大会が、年間10万大会も開催されています。


■ eスポーツ × SDGs

Japan food loss cupというのがあって、eスポーツ大会の賞品を廃棄予定の食料品にするなどして、若者に対してフードロス問題について啓蒙しながら、実際に課題の解決に貢献している取り組みもあります。


■ 社会課題への取り組み

東大阪市と事業連携協定を締結し、eスポーツを活用した学校にいけない子供たちの支援を行なっています。
なかなか学校に行けず、かつeスポーツをしている子供たちと一緒にプレイをしながら、彼らの持っている世界を広げてあげるような取り組みです。7月からは、保護者向けに「eスポーツとのかかわり方」について講演会も実施します。

ある議員さんの息子さんが学校になじめず、家でeスポーツをプレイしていた。その議員さんの仲介を経て、実際に前川代表と話してみると、なんと彼は日本トップレベルの実力を持っていた。そこで、Gameic認証団体を紹介し、そのチームに所属。彼の世界は、オンラインの中で広がっていっております。
当日、会場に、なかなか学校に行けない子供がeスポーツでトップレベルの実力を持っているというお母さんに来ていただきました。こういう時の親の考え方や行動の仕方は多くの人に大変勉強になりました。

日本の義務教育は、答えを提示し、その答えを用いてペーパーテストの点数を時間内に最大化するという能力を育てています。eスポーツにおいては答えは存在しません。同じマップ、同じ武器を与えられ、同じ条件下でいかに勝利するかというのがeスポーツです。何千通り、何万通りの戦略の中から最適だと思う戦略を実行し、 PDCAサイクルをまわしながら更に良い戦略を探し続けます。このような人材が日本の未来を担っていくと確信しています。この進化に尽力していきます。会場にも多くのアーティストの方がいらっしゃっていました。まさにみんなで創る未来です。

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