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Logo Mark「ステキ」をベースに考えるインディーズ・マーケの肝カスタマーを知ると売上が飛躍的に伸びるのは本当だった

野林徳行

ヘヴィメタル、プロレス、モータースポーツをこよなく愛するマーケター。
常に、カスタマー(お客様)の心を揺らし、「ステキ」創りをストーリーをもって実現することで成功に導く活動をしてい...

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野林徳行です。
「Spinart」にてマーケティングコラムの連載をさせていただいています。
アーティストのみなさんと接する機会も多いのですが、どんな人の心を揺らしたいのか、何を感じてほしいのか、人に言いたくなってしまうことはどうしたら起こるのか、そもそもあなたのアートによって人はなぜ幸せになるのか…答えは1つではありません。でも、常に考えていたいですね。そんな皆さんのヒントになれば幸いに思います。
82回目のコラムです。昨年の8月までブックオフグループホールディングスの社外取締役をしておりました。10年強務めさせていただきましたが、社外取締役には独立性があってちゃんと会社を監視できることが求められます。10年もやっているとやや身内的なものになりがちということで(実際にはそんなことは全くないのですが、外からの見え方ということになります)退任し、今は顧問として主にトレーディングカードの専門店のサポートをしています。今回は、カスタマーを知ると売上が飛躍的に伸びるのは本当だった…という話です。私はマーケティングとして常に、悩んだらカスタマーに聞く、わざわざ来る理由を創る、ステキなストーリーを意識すると言っています。顧問を仰せつかれば必ずここから入ります。


■ JapanTCGcenter

ブックオフはみなさんもご承知の通り中古業界の雄です。ブックオフという社名の通り元々は本の中古ショップとしてスタートしました。それから取扱商品が増え、CD、DVD、ゲーム、ケータイと増えていきます。そして全国に70店舗くらいあるブックオフスーパーバザーという大きな総合中古ショップになってくると、パソコン、洋服、ベビー用品、スポーツ用品、食器、ブランド品、玩具と大きくジャンルを増やしていきます。そんな中で今大きく業績を伸ばしているのが、トレーディングカードゲームです。このトレーディングカードの価格は相場のように毎日変わっていきます。全国のフランチャイズも含めたブックオフの社員やパートアルバイトの方々がその相場を追って価格を変えていくのは至難の業です。そこで、ブックオフは、トレーディングカード販売も専門店であるスペースチャンス社と合弁会社を作り、専門店経営にチャレンジし始めました。これがJapanTCGcenterです。ブックオフ吉祥寺店のB1Fにあります。


■ ターゲット

ポケモンカード、ワンピースカード、遊戯王、デュエルマスターズ、ヴァンガード、バイスシュバルツ…実に多くのカードゲームがあります。よくポケモンカードのレアが破格の値段で取引されるニュースを耳にすることがあります。子供たちが放課後に家や公園で遊んでいるレベルではなくなってきました。それぞれにターゲットが異なりますが、複数のカードのプレイヤーでいる人も多くみられます。店舗の販売金額の多くは、ヘビーユーザーで占められています。トレーディングカード専門店というと狭めの店舗でマニアックの常連がカードを探している印象があります。そうしたヘビーユーザーが専門店のバトルスペースで闘っているので、ライトユーザーの人は見たいと思うが、対戦したというわけにはなかなかいきません。必然的にライトユーザーが大事な顧客ではなくなっている印象です。JapanTCGcenterでは、せっかくブックオフがチャレンジするのだから、ライトユーザーにとっても「居場所」になってもらえる取り組みをしようということにしました。


■ ヘビーユーザー

当然専門店のスタッフの中にもヘビーユーザーがいます。ゲームをするにはデッキと呼ばれるセットを作る必要があります。ヘビーユーザーで強い人のデッキは大変参考になるそうです。この人たちは、勝ちたいという気持ちはもちろんあるのですが、強い人と対戦して自分の力試しをしたいという気持ちが強いことが分かりました。対戦が終了すると自己反省が始まり、より強いデッキにするためにはどんな種類のカードを補充して高い戦略性を身につけるのかという感情で陳列棚を物色します。他の生活費を削ってでも強いデッキを作ることのプライオリティが高い人たちなのです。そのためヘビーユーザーは、数店舗のトレーディングカード専門店を回り、カードと価格を把握しながら強いデッキを作っていきます。


■ アンケート

よくあることですがお客様をわかったつもりというのがなかなか業績が上がらない原因になります。
「みんなだいぶ詳しいけど本当にそうなのか聞いてみよう。さらにライトユーザーの知識が少ないね。これはもっと聞かないといけないね。」
JapanTCGcenterはわりとスペースもありキレイな空間になっていて他に専門店とは違った雰囲気になっています。ヘビーユーザーは定着してくれている状態で、ライトユーザーの人が来やすいようにしてみようと考えます。スターバックスで喫煙OKにしてしまったら多くのヘビーユーザーが離れてしまいます。そうならないようにということです。プロジェクトメンバーたちは、あっという間に200人ほどのアンケートを店内で実施しました。カードプレイヤーたちにとっては居場所となっているので、そこへの協力とか意見というのに抵抗が少なかったようです。「教えてあげますよ」というものでした。これ1つ取っても発見なのです。最近一気の盛り上がってきているワンピースカードなのですが在庫が少ないという意見、プレイ中にモンスターが飲みたいという意見、自動販売機のセットが面白くないという意見、吉祥寺にあるのですが、立川や中野からは来ていないという事実…。細かいことまでいろいろと教えてくれました。その中で、すぐにできるものを全部やろうということにしました。数字は記載できませんが、その月からこれまでの月間売上の3倍の売上となりました。統計の円グラフよりも1人1人の意見の方が圧倒的に役に立ちました。ワンピースカードについては既に地域一番店になっています。またゲームプレイヤーが大会をはしごできるように開催日程を工夫したり、ライトユーザーでも気軽に参加できる大会を開催したりしながら毎月進化を遂げています。大会がない時は席料を取らずに遊べるようにしているので広いスペースということもあり、多くの人がプレイしています。


■ ブックオフにまで影響が

この取り組みを見ていたブックオフ吉祥寺の店長が、カスタマーに聞くのはこんなに影響があるのかと、インタビューをはじめました。なんと800人ほどのお客様に聞くことができました。今はグーグルフォームを使っていろいろ知ることができます。便利になりました。店長はそれをもとに、デジタル家電やフィギュア関連、絵本、ブランド買取といった重点商品のレイアウト変更を行い、数年間下降を続けてきた業績を一気に立て直しました。


私も来年還暦です。そろそろマーケティングにおいても出る幕ではないのかなと思いますが、この事例を見るだけでもまだまだやらなければならないことがありそうです。「お客様の居場所を作る」ならば、どんな誰は何をしてもらうとなぜ幸せになるのかを追求していかなければなりません。

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野林徳行

ヘヴィメタル、プロレス、モータースポーツをこよなく愛するマーケター。
常に、カスタマー(お客様)の心を揺らし、「ステキ」創りをストーリーをもって実現することで成功に導く活動をしてい...

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