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Logo Mark連載記事

Logo Mark「ステキ」をベースに考えるインディーズ・マーケの肝なぜか印象に残る日清食品のTVCM

野林徳行

ヘヴィメタル、プロレス、モータースポーツをこよなく愛するマーケター。
常に、カスタマー(お客様)の心を揺らし、「ステキ」創りをストーリーをもって実現することで成功に導く活動をしてい...

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野林徳行です。
「Spinart」にてマーケティングコラムの連載をさせていただいています。
アーティストのみなさんと接する機会も多いのですが、どんな人の心を揺らしたいのか、何を感じてほしいのか、人に言いたくなってしまうことはどうしたら起こるのか、そもそもあなたのアートによって人はなぜ幸せになるのか…答えは1つではありません。でも、常に考えていたいですね。そんな皆さんのヒントになれば幸いに思います。
90回目のコラムです。私の顧問先に、聡研プランニングというリクルートのゼクシィの付録などを創っているノベルティや営業ツールを作っている会社があります。その会社では、私も出席させていただく毎月の営業会議でマーケティング事例共有を社員が持ち回りでやっています。11月の会議ではロングセラー商品をたくさん持つ日清食品の戦術の共有がされました。非常によかったので、それに触れてみたいと思います。


■ 聡研プランニング

私のリクルートのマーケティング局時代のメンバーである一川直子社長が経営している結婚情報誌『ゼクシィ』をはじめとした雑誌付録、企業ノベルティ、OEM商品などを高い品質で制作している会社です。クライアントからはアイデアから品質管理まで圧倒的な支持があります。最近では、特許庁意匠取得している「あしもとネットクッション」が、多くのプロ野球球団からオファーされています。みなさんも球場で、カバンをあしもとに置いていたら後ろの席の人がビールをこぼしてしまい、カバンが汚れてしまったというような経験はないでしょうか。この商品は、イスに引っ掛けてクッションになり、座席の裏にネットがかかって、荷物が地面につかないで済むという待望の商品になっています。クッションには施設というよりは、ロゴや推しの選手などがプリントされて応援グッズにすることもできます。このような画期的なオリジナル商品も開発している会社です。各球団からお声がかかり、うれしい悲鳴を上げています。制作物の品質管理は雑誌というミスしてはならない仕事で鍛えられてきましたので、とても信頼されており、次々にステキなグッズを創っています。


■ 日清食品のTVCM

ラーメン系だけをとっても、チキンラーメン、出前一丁、U.F.O.、ラ王、カップヌードル、どん兵衛、麺職人、カレーメシ…。知らない人がいない商品たちです。もちろん他のジャンルの商品も王道のものが多いですね。創業者の安藤百福氏が1958年に世界発のインスタントラーメン「チキンラーメン」を発明したのがスタートです。そして、1971年には世界初のカップ麺「カップヌードル」を発明しています。安藤百福氏のマーケティングは多くの書籍やTV番組でも取り上げられているので、一度触れてみてもいいのではないでしょうか?
ユニークなTVCMが多く、評判は「日清食品CM面白い」「日清食品CM気持ち悪い」と分かれているようですが、2021年にはプロマーケターが選ぶ「マーケティングを見習いたい国内企業」で2位に大差をつけて1位になっています。カンヌグランプリに選ばれた日清食品カップヌードル「hungry?」シリーズは、ずいぶん前のことですが真っ先に浮かんできます。


■ 日清食品が掲げる4つの思考とCM作りの基礎

日清食品には、社員が持つべき「大切な4つの思考」として「UNIQUE・HAPPY・CREATIVE・GLOBAL」の 4つが掲げられています。特にCMに関しては「面白くなければCMじゃない!」という考えが基本にあり、見ている人たちを楽しませよう、驚かせようという気概を持って制作されています。
一方で、面白さ以外に欠かせない要素として「『面白い動画を作るのではなく、商品の広告を作っている』ことを絶対に忘れない」ということもこだわりになっています。脳にインパクトを残して、結果スーパーやコンビニなどの店頭で商品のことをふと思い出してもらえることが重要です。ビールや軽自動車など、爽快!とかかわいい!とかの印象が残りますが、翌日になると、「えっと、どこのメーカーだっけ? 商品名なんだっけ?」ということが少なくありません。「ああ、カップヌードル食べたい!」と指名させないといけないわけです。他の企業の中には、一年中TVCMを放映している大手企業と同じように奇をてらって、少ないGRP(Gross Rating Point、一定期間に放送されたテレビCMの視聴率を合計したもの)なのに真似して作ってしまったり、ターゲットが不明確なまま広告代理店の言うままに作ってしまったりしてうまくいかないケースも散見されます。


■ 広告会社に頼りきらない、自前で作るブランデイング

日清食品では商品やブランドのことを一番理解している自分たちが、商品が売れるブランド・コミュニケーションを自ら作るというスタイルをとっています。希望者は自由に参加して良いオープンな会議を週1回行い、アイデアを出し合う風土があるそうです。基本的な骨格を自分たちで議論し作り、いざ制作する段階になってから広告代理店や制作会社にサポートしてもらうという進め方だそうです。
ハズキルーペも代理店のアイデアではなく社長自らのアイデアだったそうですね。私もローソンのTVCMで広告代理店が提示したプランから選ぶのではなく、ストーリーを提示して、それをアイデアにしてもらうところから広告代理店に入ってもらったときの方が、成果が出ていたような気がします。逆に、いいストーリーになっているのに、社長が表面的に口を出して台無しにするということもよくある話らしいので、なかなか難しいところではあります。日清食品では、カスタマーをベースにいろいろな環境や考えの人達がチームとなって自主的にエビデンスも踏まえながら議論している理想的なケースなんだと思います。


■ 日清食品のブランド・コミュニケーション

日清食品の主要ブランドはロングセラー商品が多く、結果としてブランドが高齢化していっています(そうは言ってもコンビニの棚に永遠にカップヌードルやどん兵衛が欠品もなく並んでいるのはすごいことです)。一般的なブランドの寿命は10~15年と言われている中、新鮮な競争力を保っていくために「次世代ロイヤルユーザー(若年層)の獲得」が最重要課題となっているとのことです。調査によれば、20代以下はカップヌードルを意外と食べていないそうです。20代の選択肢はファストフードやコンビニにも分散しているうえ、カップヌードルは「そこにあって当たり前」の商品だと感じられている。だからこそ、カップヌードルをスマホと同じくらい「絶対に無いと困る存在」へ変えていく=若年層のマインドシェアを上げることを重要視しています。そのためターゲット層の脳内にある興味・関心のマインドシェアをあげていく、カスタマーが日頃からブランドの話題にどれくらい触れているかが大事になってきます。

若年層のマインドシェアを上げるため、TVCMを中心とした宣伝活動による「空中戦」、営業を中心に店頭での露出を高める「地上戦」、さらに空中戦と地上戦をSNSマーケティングでつなぐサイバー戦を同時展開しています。たとえば、ONE PIECEをモチーフにしたカップヌードルTVCMを参考にすると、
・ONE PIECEのキャラクターが普通の高校生だったら?をテーマに若年層の共感するフレームワークを作成
・総勢53人もの隠れキャラを忍ばせた繰り返し見たくなるような仕掛け作り
・なんだこのCMは!!と感じたユーザーがスマホですぐに検索し再視聴が進む
・TVCMを見た人は誰かに伝えたくなり、SNSで感想が広がり、それがネットニュースになる
・ユーザーのマインドシェアが高まり、店頭での購買につながる
・ユーザーが興味・関心を持ったタイミングで店頭にしっかり商品が並び機会損失を防ぐ
という広告宣伝から販売促進、そして店頭コミュニケーション・品揃えまで同時に展開したのです。

結果、TVCM公開からわずか3時間で動画再生回数は300万回を超え、Twitterのリツイート10万件、いいね20万件を超える話題となり、1本のCMが何倍もの効果をもたらすことになったとまとめています。
こうした展開により、若年層のマインドシェアが上がり、直近5年間で20代以下の商品購入率は、カップヌードル121%、どん兵衛104%、U.F.O.126%、カレーメシ153%と増加、カップヌードルは5期連続、どん兵衛も7期連続で過去最高売上を更新しているとのことです。


■ 社内にも理解者ばかりではないが、いちいちおれてはいけない

前述したTVCMコミュニケーションスタイルなので、年配の役員から「意味不明なCMを作って何考えているんだ」と怒られたり、カスタマーから「最近のCMはやかましい」という声も上がっているそうですが、「人の心をかき乱すくらいのCMでないと、他社のCMに埋没してしまうし、トガったところがないとマインドシェアは上がらない」というポリシーのもと制作を続けていて、CM好感度食品業類では常にトップ、またいくつもの商品がランキング上位にいます。これが、カスタマーから支持された結果ですね。
以前、私が自分の体験を記したマーケティングコラムでも、役員全員反対の提案は、それがカスタマー無視での反対でない限り、「前例がない」「原価が高い」「上からの命令でない」という反対であるならば、必ず説得してGOすべきと書いています。そのときあきらめていたら、今のその企業の躍進はなかったと思っています。ただし、その場のみなさまにステキなストーリーを提示できることがマストにはなります。


時間に追われて類似のものの範囲のものを作ってしまう、いろいろな可能性のある人がいるのに、1人とか少人数で考えつくことで進めてしまう、周囲の意見にかき回されてカスタマーやカスタマーを笑顔にする方向性を見失う。よくあるケースかもしれません。1人がすごいことよりも、日清食品のようなチーム作り、風土作り、こだわりの共有、ターゲットの設定がやはり重要なんだと再認識した瞬間でした。

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