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Logo Mark脳内伝言板紅葉と温泉と展覧会〜受け継ぐもの〜

白砂勝敏(Shirasuna Katsutoshi)

静岡県出身、造形家/演奏家。
農業高校造園科卒業、美術音楽共に独学。
美術家、演奏家、パーカッション、ディジュリドゥ、ムビラ奏者。

20代前半人...

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長野県の蓼科にある聖光寺には2年程前、銀座のある画廊の企画展のオープニングに誘われて初めて訪れた。その時に成り行きで、そこで偶然出会ったミュージシャンと即興で演奏する事になり薬師寺長老であり聖光寺の住職である松久保 秀胤氏等、皆様の前で演奏する機会に恵まれた。その後、今年の7月に知人の画家が聖光寺で個展を開催した折に再度訪れた。この時も長老とお逢い出来、神楽殿で演奏をさせていただいたりお話していただいたりすることが出来た。そして今回の展示のお誘いをいただき個展開催に至った。

季節は秋の紅葉シーズンに合わせて企画していただけた。展覧会が決まってから打ち合わせ期間中に非常事態宣言が出たり、もしかして中止又は延期になるかなという状況もあったが、長老の計らいで開催する方向で進んで行った。

長老は普段は奈良におられ蓼科には月に数日しか滞在していない。2回行って2回お逢い出来たのはとても嬉しい。お話は幅広くその内容は奥が深い。私のような者からすると正に雲の上の方なのだろうけれど、惜しみなく色々なことをお話してくれる。

展示会場は本殿の横に移築された茅葺屋根の大きな神楽殿で、ここがまたとてもいい空間であり中からの景色も抜群にいい。これは展示に行ってから知ったのだが一部床をはがすと囲炉裏が有る事を知る。お寺の方でも出来れば火を焚いてくれた方が建物の為にもいいので使う様なら好きなだけ火を焚いてもOKとの事。薪もふんだんにあるという贅沢。開けっ広げの空間なので寒いだろうとストーブも用意して下さり至れり尽くせりで感謝しかない。何度かこちらを訪れているお客様も「ここに囲炉裏があったんだ〜」と驚かれる方も多くいた。何より焚火の匂いと炎とが空間をさらに魅力的なものに変えてくれる。個展期間中ずっと焚火してるというのもそうそうある事ではないだろう。もちろん私にとっても初めての経験だ。

今回の個展会場は縄文や旧石器時代に強く惹かれている私にとって、とても興味深い土地である。近くには尖石遺跡や諏訪大社などがあり、太古より脈々と受け継がれるこの地にて展覧会を開催させていただく事はとも感慨深く私の思考や興味にリンクする。聖光寺にて「〜受け継ぐもの〜展」を開催出来た事がとても嬉しい。

聖光寺はトヨタグループを施主として建立された蓼科湖沿いにある寺院で、1970年に薬師寺より長老・ 橋本凝胤氏 を迎え開眼法要を行った。現在の住職は薬師寺長老の松久保 秀胤氏で仏足石研究の第一人者であり、また縄文の研究家でもある。

もともと小学校だった跡地に建立しており、広い敷地には桜が沢山植えられている。標高が1200m程あるので桜の開花が4月末から5月位らしく遅咲きの桜を見に多くの方が訪れるとの事。他にも茶室や池などがある。どれもわびさびを感じるモノばかりだ。神楽殿の前には土の囲いがある。ここで年に一度トヨタの関係者が集まり護摩焚きをし火渡りをし、交通安全などを祈願しているとの事。護摩壇は普段はロープが張られ中に入れない。知らないと何でここだけ土の広場があるのかと不思議に感じると思う。
本堂の一番上の軒先(しかも両サイド)にはキイロスズメバチの大きな巣があって時々神楽殿の中にも偵察にくる。(別に襲ってくることもないので人と共存している)あと10数匹の鹿の群れが歩いている。やはり小鹿はかわいい。

蓼科湖周辺は温泉地で近所にある「小斎の湯」の社長さんが個展に訪れてくれて期間中使いきれない程のチケットを頂く。何より気持ちが嬉しくて後日お礼にお酒をもってお伺いする。おかげで毎日温泉三昧。お風呂は内湯と露天が計6〜7か所あり、それが男湯と女湯に分かれている。高台にあるので蓼科湖を見下ろし山々に沈む夕日を眺めながらの露天風呂もある。なんというかとても落ち着く。空気が冷たくて温泉は熱めで最高だった。放浪時代を思い出し、全然成長していないというかむしろ更に幼児化しているのではないだろうかとも思うのだが、危機意識は全くない自分がいる事がなんとなく笑えたりもする。

最終日の31日に薬師寺長老の松久保 秀胤氏がご来訪くださった。長老は時折り奈良から訪れる。長老は93歳で少し耳が遠いいがとても元気で、作品を見る時も一点一点丁寧に細部まで見て下さり、気になるとキャプションを読み、感想や疑問を伝えてくださった。そのしぐさや言葉がとてもクリヤーで総ての物や事柄との距離が近いように思えた。もし私が長生きしたならそんな風に年を重ねたいと思った。長老の感想を聞いて、益々迷いがなくなりこのまま行けるところまで作品を創り続けていきたいと思えた。

作品の中にはキャプションを付けていない物もあり、その一つに長老がなにかインスピレーションを得たようで、タイトルを付けて下さるとおっしゃられた。それも驚いたが「Tri eye of Earth」といきなり英語でサラサラとタイトルを書いてくれたので周りにいた人もびっくりしていた(笑)。後で聞いた話だが、長老は英語も堪能との事。この作品は「水の記憶 S46」というタイトルで、セメントに丸い模様の石を9個埋め込んだ縦横110cmx16cm、重さ22kgほどの作品。そして目について、単眼、両眼、三眼、複眼等などふまえて「Tri eye of Earth」について話してくださった。とても嬉しい出来事で、人生こんなこともあるんだなと感動。長老はとても面白かったと言って下さり、また1〜2年して新しいアイデアが出来たらまた展示しなさいと言ってくださった。

またこれは会場によっても違うので何とも言い難いのだが、作品にタイトルやキャプションを付けるかどうかをいつも考える。作品を純粋に見て頂きたいとの思いと、キャプションにタイトルやそれ以外の説明を付ける事で見る方の創造性を阻むかもしれないこと、あまりキャプションが多すぎると空間のムードを壊してしまうという思いもあり、なるべく最小限に留める方向へ行ってしまうのだが、今回の長老の作品を見る姿を拝見しながら感じたことがあった。私はこれまではキャプションを見てから作品を見る人が多いい様な認識でいたが、実はそうではなく、作品を見て何かに惹かれ、もう一歩入り込みたい人が見るものなんだという事に気が付いた。それを読むも読まないも自由なのだから私の意図を添えておくことは想像を狭める事もあるかもしれないが、逆に広がる事もあるのかもしれないという思いが生まれた。

長野県で展示をするのは初めてだったが、聖光寺様のご尽力のおかげで新たな出逢いを沢山頂くことが出来た。またマスコミ等メディアを見てご来場くださる方も多く、今回も皆様に支えられているありがたさを実感することが多かった。アートに出逢ってから13年がたち、気が付けばこれまでに100回以上の展覧会を色々な方に企画して頂いている。流石に必然的に思える出逢いが多くなり、どんな小さな展示でも絶妙なタイミングや人脈などどれ一つかけても成り立たない不思議なバランスで成り立っている事を認識してくる。会場によっては来場者数も多く華やかに見える場所や、逆になんでこんな人が来ない所でやっているのかとお客さんに心配されるような所もあるのだが、ぱっと見た目にはわからない素敵な事が数多く存在するのも展覧会の醍醐味だと感じている。やってみなければ本当にわからない博打みたいな要素も多々あるのかもしれないが毎回思いもよらない展開が起こる事がとても楽しい。もともと余り期待しない性格なのか嬉しい出来事があると普通の人より喜びが大きいだけかもしれない(笑)。

普段不規則な生活(明け方まで制作して目が覚めるまで起きない)昼夜逆転の生活から一変して規則正しい生活をしている。健康的でいい。作品制作が出来ないのは少し寂しい。PCがあるので普段後回しにしているデスク仕事をするにはいいのだが…。

今回も毎日があっという間に過ぎていく。日に日に進む紅葉と積雪の八ヶ岳に厳しい冬の気配を感じながら、一期一会を大切にそして出来る限り丁寧に時を重ねていきたいとの思いが益々深まる旅であった。

                    おしまい

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白砂勝敏(Shirasuna Katsutoshi)

静岡県出身、造形家/演奏家。
農業高校造園科卒業、美術音楽共に独学。
美術家、演奏家、パーカッション、ディジュリドゥ、ムビラ奏者。

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