2025/03/10
ヘヴィメタル、プロレス、モータースポーツをこよなく愛するマーケター。
常に、カスタマー(お客様)の心を揺らし、「ステキ」創りをストーリーをもって実現することで成功に導く活動をしてい...
野林徳行です。
「Spinart」にてマーケティングコラムの連載をさせていただいています。
122回目のコラムです。「わかさ生活のブルーベリーアイ」というサプリと聞くと、みなさんはどのように感じますでしょうか? 主なターゲットは、視力の低下や眼精疲労、老眼など、目の健康を意識し始める中高年層、パソコンなど事務作業の多い職場環境のデスクワーカー、若年層には、勉強や読書による視力の低下や眼精疲労を気にする学生などをイメージしますよね。ところが、アイドルなど推しのライブでは、高校生くらいの女子が、ブルーベリーアイを飲んで準備してきた!と話しているのです。しかも、それに影響されてもっと上の層も、推しのライブの数日前からブルーベリーアイを飲んで準備しているらしいのです。どんな戦略を取ったのか見てみましょう。
リクルートのゼクシィの付録を作っていたり、何球団ものプロ野球のオリジナリティの高いグッズが評判のノベルティ・ツールを創っている会社です。この会社のアイデア会議にて、このわかさ生活のブルーベリーアイの戦略がおもしろいと話題になり、みんなで共有しました。マーケティングとは、どんな誰は何をしてあげるとなぜ幸せになるのかの追求なのですが、この「どんな誰」の既存ターゲットとは違うターゲットに目をつけたおもしろい事例でした。
サプリメントおよび化粧品の商品企画及び研究開発、販売をしている会社です。テレビの通販番組やCMでもよくみかけます。1998年4月に創業し、ブルーベリーアイの通信販売を開始しています。創業者の角谷氏は幼少期の事故が原因で命と引き換えに右半分の視野を失ってしまいました。「自分のように目で悩んでいる人のためのサプリメントを作りたい」と考え、ひとみに良い成分を世界中から探し求めてサプリメントの開発に成功したそうです。流行にのって儲けようと大した効果もないサプリを販売しようという会社がたくさんある中、動機から開発努力までステキなストーリーがあります。
上述したように当初のターゲットは、中高年層、デスクワーカーなどでした。実際に、主力顧客層は、50~80代だったようです。しかし、100年続く企業を目指すには、若い世代がいずれ目の悩みを抱える年代になったときに、真っ先に手に取ってもらえる存在でなければならないと考えました。ひとみに良い成分を世界中から探し求めたくらいですから、品質には自信があったのですが、DHCやファンケルなどの競合は、ドラッグストアやコンビニエンスストア、スーパーマーケットなど大きな流通の店頭を次々に抑えて、消費者の目の前を占拠していく戦略に対して、通販専門で勝負してきたので、若年層と接点を持って商品を認知してもらえるか、大きな課題でした。
若年層に認知してもらうには…広報担当者が目をつけたのが、「0円で競合と戦えるX(当時はTwitter)投稿」でした。わかさ生活の公式アカウントは、一般的な企業アカウントっぽいただ商品情報を一方的に発信するだけのよくあるものでした。作っただけ、担当者が戦略なく商品情報を流しているだけのもの。よくある話です。
この担当者は、2020年10月、独断で「#推しを見るためのブルーベリーアイ」というハッシュタグをつくり投稿を始めたそうです。なにか起こるときには、会社としての体裁ではなくて、こういう閃きの人が偶然いた場合によく起こっている気がしますね。さらに「ブルーベリーサプリ」に関する投稿をしている人を検索で見つけては、いいね!を押し、潜在層にアカウントの存在を周知していきました。Spinartの清水代表もステキなアーティストを見つけてはみなさんのアカウントにご連絡をして、みなさんとともにアーティストがステキなコラボできるように地道に続けています。代理店に頼んでバズらせるみたいな乱暴なことは続きませんね。この地道な活動が花開き、「ライブ前なのでブルーベリーアイを買いました」といった投稿が次第に増え始めていきました。そして2022年8月には、「推しを見るためのブルーベリーアイ」と、アカウントのヘッダーを変更。さらに同年10月には、男性アイドルグループのYouTubeチャンネルとのタイアップ企画も行いました。こうした努力が実を結び、推し活をする人たちの間での認知が急速に拡大。2023年7月号のアイドル雑誌で「推しグッズ大賞」に初めてノミネートされるまでになりました。
いくら推し活がブームとはいえ、ブルーベリーサプリは他社も販売しており、「推し活に向いている」だけでは、わかさ生活のアカウントをフォローする明確な理由にはなりません。ファンから支持される理由は、アカウントの「キャラクター性」にあるようです。公式アカウントは、「わかさ生活広報部」と名乗っている通り、広報が主体となって運営しています。マーケティング戦略なら、どのくらいのフォローワー数が必要とか、商品ページへのコンバージョンレートを意識すべし などの会話になることが多いですが、このアカウントは、そういった指標は設けず、あくまでファンづくりが目的として運用されています。運用を行うのは一人の広報担当者で、「中の人」を貫いていて、顔出しをしていません。広報担当者は、ブルブルくんのぬいぐるみや、馬のかぶり物をして登場しています。私の友人で、中高生のための勉強法Youtuber「みおりん」も、顔出しせずぬいぐるみを使って動画をあげており、20万人以上のフォロワーを獲得していることを思い出しました。わかさ生活のXは、思わずクスッと笑いたくなったり、突っ込みたくなったりする自虐性のあるユーモアな投稿が目立ちます。会社や商品とは直接関係のない投稿もあるのですが、そんな抜け感があるからこそ、人々は企業アカウントだとしても、突っ込みたくなり、時には励ましたくなります。これが、愛着へつながっていきます。ローソンに在籍していた時でもマーチャンダイザーが登場するよりも、アキコちゃんというキャラクターが新商品を紹介することで親近感を持ってもらえたことも思い出しました。
たとえば、
キャラクターのブルブルくんが、自動ドアに挟まってしまった映像をあげて、
#欠勤届を提出した
欠勤理由:自動ドアに挟まったため
欠勤期間:全治2週間(心のケアも含む)
という投稿が、「かわい過ぎる」とバズり、複数のWebメディアに取り上げられ、「LINE NEWS」と「Yahoo!ニュース」では、それぞれトップになったということです。
グッズにも若年層開拓の可能性があると見込んで、次に仕掛けたのが、期間限定で表参道にオープンしたポップアップストアです。今は、アニメキャラクターだけに限らず、あらゆる場所でさまざまなポップアップストアやコラボカフェが花盛りです。ニュースにも取り上げられやすい取り組みとも言えますね。このポップアップストアでは、ブルブルくんなどのグッズを中心に販売し、1万人以上が来店するなど、若年層を中心に盛り上がりを見せました。これまたローソンの時の話ですが、PONTAやからあげクンなどのキャラクターをいろいろ押し出しても特に何も起こらなかったのですが、このブルーベリー色した丸いキャラクターがこんなに人気が出たのは、かわいいエピソードと推しをよく見るための大事なツールであるというストーリーが育ててくれたものかもしれませんね。現在は公式SNSフォロワー数も競合他社をぬいて1位となっており、若年層のファン獲得が成功しています。
原材料がどのようなキーワードで検索・拡散されているかを地道に探し、今までにないターゲット層を見つけ、そこに確実に響くコンテンツを考えている点がとても良かったと思います。たくさんの広告費をかけられなくても地道に、ターゲットを徹底的に知り、そのターゲットは何に心を揺らされるのかを考えて届ける、そんなステキな事例な気がします。また、企業や商品の紹介だけでなく、キャラクターの個性や人間味をアピールすることで、応援したい、積極的に拡散したいと思わせる投稿が、新たなファン獲得につながっているとも思います。誰とコミュニケーションするので、こういうトーンにする。できているようで、まだまだ詰めが甘いシーンはたくさんありそうです。とても良い事例ですね。
ヘヴィメタル、プロレス、モータースポーツをこよなく愛するマーケター。
常に、カスタマー(お客様)の心を揺らし、「ステキ」創りをストーリーをもって実現することで成功に導く活動をしてい...
準備中