2025/03/16
ヘヴィメタル、プロレス、モータースポーツをこよなく愛するマーケター。
常に、カスタマー(お客様)の心を揺らし、「ステキ」創りをストーリーをもって実現することで成功に導く活動をしてい...
野林徳行です。
「Spinart」にてマーケティングコラムの連載をさせていただいています。
123回目のコラムです。3.11東日本大震災から14年経ちました。福島第一原子力発電所の事故に伴い、福島県の双葉町は警戒区域及び避難指示区域設定されました。テレビ東京の番組「カンブリア宮殿」にて、この双葉町の復興に名乗りを上げた岐阜県の会社浅野撚糸の特集が組まれていました。何度見ても泣いてしまう内容でしたのでシェアします。
私は、そのときローソンチケット(正式社名は株式会社ローソンエンターメディア)の社長をしていました。前年に大きな事件があり、そのあとの立て直しで社長となり、過去最高売上・最高利益を出して世間の信頼を取り戻していた最中での震災でした。衝撃的なことでしたが、まずは東北支社の従業員の安否確認。そして、プロ野球やJリーグなど開幕戦のチケットも売り終わっていたタイミングでしたので、急遽の払い戻し対応に追われていました。関東地方、とくに東京都が節電のため数々のイベントも中止になりました。また、被災地の方々は、そもそも払い戻しどころではないのですが、手持ちのチケットも被災によって失ってしまっている状態でした。私は、もともとローソン出身でローソンチケットに来ていますので、チケット対応よりもまず、食品や日用品の対応が先でしたが、コンビニエンスグループも、家族を失ってしまったりする中でも、必死に地域のために店を開けているフランチャイズオーナーの意気に頭が下がる思いをしていたのも覚えています。店舗ごと流されてしまったのに、場所を借りて地域のために奮闘しているオーナーもいました。すごい体験でした。
テレビ東京の中でも好きな番組のひとつです。司会の小池栄子さんは、夫がプロレスラーの坂田亘さんであり、彼が所属していたプロレス団体「ハッスル」が、ローソン時代にタイアップキャンペーンをやったことがあることで仲良くしていて、おふたりの結婚式にも呼んでいただきました。1社をじっくりとストーリーで紹介してくれる番組で、ローソンも何度かお世話になりました。
岐阜県安八郡安八町にある撚糸製造・タオル販売の会社です。社名の通り、撚糸の会社です。製造された原糸は、そのままでは非常に細く、ばらばらになって扱いにくいので生糸の束に軽く撚りをかけます。 この工程を経ることで初めて一本の糸として使えるようになります。これが撚糸ですね。この会社が、独自開発した最高の撚糸「スーパーゼロ」を開発し、その撚糸で作った高級タオルが高い評判を得ています。2007年に発売された吸水性が高く、びっくりするくらい柔らかい「エアーかおる」という魔法のタオルは、1900万枚も販売されています。
浅野雅己社長64歳。除染区域が一部解除になる(町の15%だそうです)ことを見越して、地域の産業が重要と経済産業省から声がかかり、現地に赴いたそうです。7000人いた町民が、避難指示によって0人になった地域の少しずつ復興の第1歩という感じでしょうか。協力工場と共に何度もの倒産の危機を免れてきた浅野社長としては荷が重すぎる要請であったため断るつもりだったようです。ところが現地視察をしてみると、今にも住めそうな新しい家が、主人が返ってくることを待っているという印象で、単に人が消えた町のような光景だったといいます。浅野社長は、福島大学を卒業したもののその後訪問もしていないこともあり、知らぬ顔ができないという思いになったようです。補助金と借金の30億で新工場を建設。2023年4月に岐阜からの異動者含めた20人でスタート。町からの情報では町民も500人は戻る見込みとのことでしたが、30人の高齢者が戻ってきただけでした。みなさん既に避難先に家も建てたりして戻れないという感じだったようです。「帰還される町民の働き場所」を創るということをモチベーションに思い切った投資をした社長は愕然としたことでしょう。さらに、新型コロナが流行し、冠婚葬祭もなくなり、機械も停止します。銀行から3億円を借り増し、借金も26億円に膨らみ、再び倒産の危機になります。
現地採用のことに触れましょう。町民の働く場所を創るということで、高校も8校回って呼びかけを行いました。うまくいきません。ある高校への3回目の訪問のときの先生の言葉、「また来たのか、授業だけでもやっていけ」。その授業で、何人かの生徒が反応し「働きたい」という言葉が出ました。ドラマみたいです。ここからすごいことが起こります。
地元の高校4校が研修にやってきました。
ある生徒の質問「あなたにとっての復興とは何ですか」。
とても難しい質問です。その質問に対して、19歳の新入社員の女性は、「私はこれまで復興に何の役にも立てませんでした。でもこの会社に入ればやれると思いました。私の復興は、私がここにいることです」。聞いていた高校生もみんな泣いていたようです。陰でこっそり見ていた倒産の危機でうなだれていた浅野社長は、「18~19歳の子が覚悟を決めているのに、経営者の自分が、後悔という言葉を口にしているとは情けない」と感じ、エネルギーをもらったことを語っています。
新しい販路ということで、コストコやスギ薬局などのドラッグストアの棚を開拓していきます。新たなタオルの開発にも挑み、吸水性はそのままに、究極の柔らかさを持つ「わたのはな」ができあがりました。百貨店を中心にすぐに多くのファンを獲得しました。月単位では黒字にもなります。19歳の覚悟のある女子社員の言葉が、こんなにも社長の意欲を駆り立て、会社の経営が良くなる…すごいことですね。発言した本人は、このことに気付いているかどうかわかりませんが。さらには、双葉町の視察ツアーも積極的に行います。地元の小売りの方々を呼んだツアー、企業研修、海外からの視察…。この工場を「交流人口を増やす」シンボルとして活用しようとしています。
番組でもおふたりの若手社員が紹介されていました。南相馬出身の女子。入社理由について、「一番は復興に携わりたかった。自分も幼いころに被災を経験しているので、町の人の心に寄り添いたい」ステキです。そして、さきほどの社長の心を揺らした女子(現在20歳)。「いわき市から双葉町に単身で引っ越してきた。町にはコンビニエンスストアが1軒しかない。それも20時に閉店してしまうので、常に自炊してます。いわき市も被災したが、復興は進んでいて、今は昔の生活とほぼ変わらない状態なのに、少し北上するだけで何もない。そういう中で、双葉町に来ていることは、周りに発信できる一歩かと思う」 働くって役に立つこと、そんなことはわかっていますが、純粋に役に立ちたい、そして役に立ち続けたいと思うこと、これが企業の原点だと改めて思いました。工場は、2期目に4人、3期目の今年は5人が入社するとのことです。そして、企業としては、世界にはばたく高級ブランドをめざして、野望が広がっています。
働く意味、発信する意味、原点をぶらさない意味…芯の確認になる放送でした!
ヘヴィメタル、プロレス、モータースポーツをこよなく愛するマーケター。
常に、カスタマー(お客様)の心を揺らし、「ステキ」創りをストーリーをもって実現することで成功に導く活動をしてい...
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