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Logo Mark脳内伝言板軌跡ノ奇跡 可知信二展

白砂勝敏(Shirasuna Katsutoshi)

静岡県出身、造形家/演奏家。
農業高校造園科卒業、美術音楽共に独学。
美術家、演奏家、パーカッション、ディジュリドゥ、ムビラ奏者。

20代前半人...

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一年ほど前、突然の悲報が届いた。親しい知人の可知さんが脳卒中で倒れたと。そしてわずか数日のうちに亡くなってしまった。あまりに急すぎて理解が出来ないというか、受け入れることが出来ない。それは一年が過ぎた今も変わっていない。

可知さんとは十数年の付き合いで歳は私より10才上。「さんだくれ」というパンクバンドで一緒に活動していたバンドメンバーだった。また可知さんは絵描きで近年は東京の二科展なんかにも作品を出品していた。亡くなるちょっと前にも二科展に入選したと連絡をくれた。いつもはバンドのメンバーと連れだって六本木の国立新美術館へ行くのだが、くしくもコロナ禍で田舎からは、東京へは行き難い時期にあたり、伺うことが出来なかったのがとても悔やまれる。

可知さんとの出逢いは私が主にアクセサリーを創っていた頃で、ちょうど店舗販売からネット販売に切り替えた頃だった。ネット販売に切り替えたことで自由に出来る時間が増えたので、気が向くと時々近くの観光地にふらりと行っては店を広げていた。ここは、いつ行ってもOkで、売り上げの数十パーセントを納めればOK。湧水地で観光バスが結構来る。天気のいい日はとても気持ちのいいお気に入りの場所だった。そこでも色々な露天商と出逢ったなぁ、今はいい思い出だ。そこへある時、可知さんがふらりと現れた。聞けば知人の絵描きに、面白い人がたまにここでアクセサリー売ってるって聞いてきたと。勿論意気投合するわけで。そしてその日の晩、可知さんの知人宅でショウガパーティーをするので是非遊びに来ないかと誘われる。正直ショウガパーティーって何なのか良くわからなかったが、面白そうだし、断る理由ないし、伺う事にした。

それがまた面白い偶然を呼び、その後の人生に大きく関わっていくのだけれど、その時はそんな事微塵も思っていなかった。

夕方案内されるままに付いていくと、私の実家の近所の大きな農家へ到着する。これには驚いた。そして集まってくる面々の殆どが私が通っていた中学の先輩や後輩だった。まぁ先輩と言っても10才上なので面識はないのだが、後輩2人は話したことはなかったが知った顔だった。後になんかの拍子にわかるのだが、そのうちの一人、ベースのシド・サンダルの母親に実は結構世話になっていたのだ。運命というか何というか想像も付かないところで人は繋がっている事を学ぶ。
私は中学、高校と傍から見ると不良少年という存在だった。そんな頃、たまり場だった友達の家の近くにたこ焼き屋があって、良くそこに行っていた。そこのおばちゃんがシド・サンダルのお母さんだったのだ。このお母さん、「それじゃあ足りないだろ」とかいっていつも買った分以上におまけしてくれた。腹を減らした貧乏学生にはそれだけでもありがたかったが、当時の不良は一目でわかるというか、金髪で昼間から学校をさぼってフラフラしている私を、何かにつけ心配してくれていた事をいつも感じていた。それは今でも思い出すと、何か温かいものを感じる。

そうそして農家の主でボーカルのはじさん、ギターのなおかつさん、サイドギターの雑音ケンイチ等、と出逢った。そしてショウガパーティーとは、はじさんが育てたショウガがメインのBBQ飲み会だった。取れたての芽ショウガ。これがまた美味しいわけで。もちろん食べ放題。

そんなこんなで、気が付けば私もバンドに加わっていく。可知さんを含むメンバーみんな、音楽もアートも、あとバイク好きで、面白そうな美術展やライブへ沢山出かけて行った。可知さんはオタク気質というか、雑学王でマニアックな事を色々知っていたし、そういったアンテナをいつも張っている人だった。取り分け凄かったのは、時計やカメラの部品などで創ったアクセサリーを、何か今までと違ったブランドを立ち上げた方が良いかと思いバンドメンバーに話したことがあった。それからしばらくして、ある時、可知さんが、白砂君の創っているのはスチームパンクっていうジャンルに近いと洋書の本を持ってきた。まだその当時日本にはスチームパンクなるものは殆ど入って来ていなかった。その本を見ると世界観はドンピシャな感じだった。だからといって同じような物を創っている人はいないようだった。それから割とすぐに日本でもスチームパンクが普及し始めた。それに伴ってか、運よく私の作品もフルカラーの書籍で何冊か掲載していただく事になっていった。そういう所で広がってくれたのは紛れもなく可知さんのアンテナのおかげである。

可知さんは公募展に大きな絵をだしてはよく賞をとっていた。可知さんに個展はやらないのかと尋ねたことがあった。その時は何か思うところがあるのか、もう少ししてからといっていた。
可知さんにお別れを言いに行った時、ご親族が絵をいっぱい並べてありバンドメンバーに一枚ずつ持っていて欲しいと言われた。その時にお母さまが一度くらい個展をしてやりたかったといっていた。それならばみんなで可知さんの個展を開催したいですねと、思いが一つになり、一周忌を過ぎたら「さんだくれ」や知人たちで個展を開催する事になった。

個展は10月29日から11月6日 三島パサディナ美術館にて開催することが決定している。
パサディナ美術館の館長さんと可知さんとは旧知の仲ということを知っていたので、開催するならここしかないと思っていた。館長さんに連絡する。多大に協力してくださり、今も着々と準備が進んでいる。先日もどれくらい作品があるか取り合えず皆で作品を運び出したのだが、かなりの数と、50号〜100号サイズの大きい絵が多いので見ごたえある展示になるだろう。出来る限り可知さんの全作品を展示する予定である。多くの方にご来場いただけたら嬉しく思う。

最後に可知さんとお別れを告げた日に書いた散文

【月になったあなたへ】

あなたにお別れを告げた夜 大きな月が昇ってた

あなたにお別れを告げた夜 その夜は"十五夜"で

8年ぶりに中秋の名月と満月が重なった夜だった 大きな月が綺麗だった

絵画が無くてもあなたを忘れはしないけど 皆で一枚ずつあなたの筆あとをもらった

温かくて優しいあなたの絵は 不思議なくらい私を 明るく包み込む

宇宙が好きだったな 釣りが好きだったな キャンプが好きだったな バイクが好きだったな カメラが得意で 車が好きで 酒やたばこが大好きで 旅が好きで 音楽が好きで アートが好きで アニメが好きで てんやが好きで サブカルが好き そして さんだくれが大好きで
もっともっと遊びたかったな

いっちまった さんだくれ 残された さんだくれ 実感のないまま時は過ぎてゆく

いっちまった さんだくれ 残された さんだくれ あなたの所へいくまでにもう少し歌って 踊る

        白砂勝敏

TOP写真は さんだくれ達 下北沢 GARIGARIライブにて

可知信二展「軌跡ノ奇跡」展示詳細

10月29日〜11月6日
10:00〜16:00(最終日は15:00)
休館日:11月4日

〒411-0803
静岡県三島市大場1086−72
TEL:055−983-6262
三島パサディナ美術館

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白砂勝敏(Shirasuna Katsutoshi)

静岡県出身、造形家/演奏家。
農業高校造園科卒業、美術音楽共に独学。
美術家、演奏家、パーカッション、ディジュリドゥ、ムビラ奏者。

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