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Logo Mark連載小説・空虚な石(仮)4. 父(1)

スピナート文芸部

アーティストを支援するサイト「Spinart(スピナート)」が、小説系の文筆を志す方のコンテンツを、トライアル的に展開するのがこの「文芸部」。
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「そうかぁ…。随分と重い話になったんだね…。」
 放課後、例の公園。あの橋の手すりに腰掛けながら昨日の顛末を薫にきちんと説明した。朝、自分を同席させなかったことで少しむくれていた彼女も、その話を聞いて納得してくれたようだ。実際のところ、恐らくだが、叔母と面識のない彼女が同席していたら昨日の話は聞けなかったことだろう。
「耕平…大丈夫?」
 心配してくれている。それがうれしい。しかし不思議なことに、それほど大きなショックがあるというわけでもないし、実は自分が持っている母の姿と全然結びついていないのだということも伝えた。
「そうかぁ…そうだよね。耕平のお母さん、全然そんな感じじゃないもんね。耕平のこともお父さんのことも大好きって感じだったよね…。」
 言ってから彼女は少し考えている風だ。
「でも…だからこそ意外だな…そんなことがあったなんて…。」
 確かにそうなのだ。意外という言葉がピッタリと言えばその通り。母にそんな一面があったなんて、まるで想像ができない。
 そういえば父との結婚も、父がかなり一方的に母を好きになって…これも想像しにくいことだが…父がしつこく母を誘いまくって落としたのだと聞いたことがある。母としては最初、まったくそんなことになるとは思ってもいなかった相手だったと笑いながら言っていたのを思い出す。実は母の本当のタイプって父のような人ではないのかもしれない…そんなことをふと思ったりもする。
「ねぇねぇ…。」
 彼女が、最初の「ねぇ」は強く、次の「ねぇ」は尻すぼみに口を開いた。声に反応して彼女の方を向く。恐らく、なにか自分で面白いと思ったことを思いついたのだが、言いかけて、それがちょっとよくないことのように思えた…ということなのかもしれない…と、予感した。
「こんなこと言うと耕平が怒るかもしれないけど…。」
 恐らく僕の予感は的中している。
「なに?」
 彼女が気後れしないようにできる限り柔らかく応えた…つもり。
「あのね…、もし…もしだよ。耕平のお母さんが本当にそんなに好きになってたんだとしたら…どんな人か見てみたいなと思って…。」
 なんだそんなことかと思う。それは僕も思っている。母が父以外に、しかもかなり夢中になっていたという人。それはもちろん見てみたい。それによって恐らく、自分がこれまで知らなかった母の一面を知ることになるだろう。だからといってなにかが変わるわけではないとは思うが、それでも母の知らない一面を見てみたいという好奇心のような気持ちは抑えられない。
 僕の答えに彼女は安心したようだった。そして急になにやらニコニコしながら夕暮れにさざ波立つ水面を見ている。そしてポツリとつぶやいた。
「なんかいいなぁ…。」
「なにが?」
 反射的に問い返す。彼女はまだ水面を見ている。
「そんなにまでして好きになれる人が居るって、いいなぁと思って…。」
「薫?」
 彼女の言葉にいきなり不安になった僕は思わず強めに切り返す。その声に僕の気持ちを察したのか、彼女は慌てて身を起こし、こちらを向いた。目が丸くなっている。
「いやいや! 私には耕平が居るから大丈夫だよ! 耕平のこと大好きだからね〜。」
 最後は完全に戯けて言った。しかしそれでもうれしかった。


連載小説「空虚な石(仮)」をまとめて読む
1. 母
2. 黒い人
3. 叔母
4. 父(1)
4. 父(2)
4. 父(3)
5. 薫

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